F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.16
「遊 脇道」Act.16
08.12.23up
だからといって何が出来るわけでもない。
悩んだときは躰を動かそう。
オレはそうすることにしている。
他にもクリーニングに出すモノを家中から集めて、他の汚れ物を洗濯機に入れた。
洗剤が無いことに気付いて、クリーニングと買い物に出掛ける。

「…。」
どうしよう。
安定剤を飲んでるのを知ってしまったことを話した方がいいんだろうか。
考えながら行動していたおかげで、クリーニング屋になんの感慨もなくスーツを渡したことに後から気付いた。
「どうでもいいや…。」
そうだ。男の口癖。
「オレ以外はどうでもいい…か。」

病んでいることと、オレに執着することに何か関係は有るのだろうか?
それともなにか原因があって、それ以外のこととしてオレを無くすことにあんな恐怖を抱いているんだろうか。
…解らない。
元々健康な人であっても、いや、自分のことでさえも精神のことなんて計りようがないのに。
壊れた精神の原因や構造なんてオレから考えて解るわけがない。
まして相手はオレよりずっと長く生きて、人生経験も多い大人だ。
二十歳にもならないオレに理解しきれるハズもない。

「それでも…護ってやりてぇよ。」
少しでもつらい思いから遠ざけたい。
少しでも不安や恐怖を取り除いてやりたい。
少しでも癒して安心させてやりたい。
少しでも多く幸福だと感じさせてやりたい。

男が落ち着いているときに話をしようか。
ただ薬に頼らせるのではなく、なにか解決法を見付けた方がいいんじゃないだろうか?
仮にずっと治らないモノであっても、なにか対応策が有るかも知れない。
お互いで少しでも良くなるように、日常気を付けることとかを話し合った方がいいような気がする。

しかし、男はオレに知られたくないと思っているのかも知れない。
オレに解らないように薬を飲んでいるのはそう言うことかも知れないじゃないか。

でも、独りで抱えさせるんじゃなくて、一緒に支えてやりたい。

思考が堂々巡りになり、やがて空回りしていく。
おかげで気付いたときには買い物も洗濯も掃除も終わり、後は食事の献立を考えるだけになっていた。
まだ昼前だ。
「オレって優秀…。」
家事王選手権があったら優勝候補だな。
あ、でも節約は考えるのに時間が掛かるので弱いかも知れない。

「晩メシ、なんにすっかなー。」
肉が好きだっつってたから、これは外せないな。
でも野菜をしっかり食べさせたい。
脂は控えた方がいいかな。
味付けをした薄切り肉で茹で野菜を巻いて、さらにそれをレタスで包むことにした。
「んー。肉っぽさが薄いかな?外のレタスはやめてサラダにするか。」
今日は冷えるからスープはオニオングラタンにしよう。

ココットに持ち手の付いたような小さなスープポットを出してしみじみ眺める。
「こういうヘンなメニュー用の器は引き出物に有るんだよな。」
実用性が少ないってのに。
ま、使うからいいんだけどさ。
付け合わせはマッシュポテトと、脂を落としたベーコンと野菜と豆の煮物にした。

下ごしらえとオレの昼食を兼ねて、豆を茹でるのと平行して玉ネギを刻みながらもう一度メニューとその手順を考える。
これが料理には大切だと思う。
あとは酒の肴…。
飲むのかな?
薬を飲むかどうかによるんだよな?
どうしよう?
と思っていると携帯が鳴った。
男からだ。

「センセイ?」
いきなり声が聞こえた。
「んー?どうした?」
オレは手を洗って椅子に座った。
「センセイの声が聞きたくてな。」
「ん。そか。」
そうだろうな。

「何をしていたんだね?」
「ん?昼メシと晩メシの用意をしてたよ。」
「そうか。今日の献立はなにかな?」
「帰ってからのお楽しみだ。
 あんた、豆は平気か?」
「ああ平気だ。セロリ以外ならなんでも食べられる。」
「そか。
 …なあ、今日あんたは酒を飲むか?
 それによっちゃ、肴を用意するからさ。」
「…。」

少し考えているようだ。
オレは黙って返事を待っていた。
「いや、今日はいい。食後は紅茶にしよう。」
それはやはり薬を飲むと言うことか。
「…解った。」

ダイニングキッチンのテーブルには買ってきた食材が積まれている。
唐突にその平和な眺めを男にも見せたいと思った。
「なあ。ショチョウ?」
「ん?なんだね?」
「オレ、あんたが好きだよ。」
「!? …有り難う。私も君を愛しているよ。」
「あんたが大切だ。一緒にいたいから早く帰ってこいよ。」

「…早退しても?」
「それはダメだ。定時まで仕事したら、一目散にオレのところへ帰ってこい。」
「センセイ?どう…」
「返事は!!」
「Yes,Sir!…ぁ。」
「ん?」
「いや。了解した。君の元へ真っ直ぐに帰るよ。」
「ん。気を付けてな。仕事頑張れよ。」
「ああ。後はつまらない会議だけだがね。」
「居眠りしねぇようにな。」
「…するとホークアイ君が怖いからな。善処しよう。」

「じゃ、後でな。」
「ああ。…センセイ?」
「ん?」
「もう一度、一緒にいたいと…言ってくれないか?」
くす、と笑いながらオレは心を込めて言葉を贈った。
「あんたとずっと一緒にいたい。あんたはこれからずっとオレと過ごすんだ。
 オレだけを目指して早く帰って来いよ。」
「…有り難う。愛しているよ。
 では、また後で。」
「ああ。」
男が通話を切るのを待とうと思った。
でもあいつから切る訳もないと気づいてオレから切ることにした。

耳をあてても何の音もしないオレの携帯。
今あいつは
「ツー、ツー」と言う音をまだ聞いているハズだ。
きっと微笑みながら。
男が喩えようもなく愛おしい。
そしてその時、オレは自分が泣いていることに初めて気付いた。


まだ男が帰ってくるまでには数時間ある。
オレは友人で顧客でもある、医者のルジョンと会うことにした。
ずっと年上だけど、小さい頃から仲がいいんだ。
もう年末で診療は終わっているはずだ。
連絡をすると時間を空けてくれるという。
早速車で向かった。

「悪いな。仕事終わってんのに。」
診療所兼自宅に入ると、家人に聞かれることに気を利かせてくれたのか診察室へ案内された。
「いや、11月までの帳面があがってるから丁度来て貰ってよかったよ。
 12月分は少し待って貰えるか?」
人当たりの良さは子供の頃から変わらない。
医者はこいつの天職だと思う。

「ああ。医者は源泉票が来るのが3月に入ってからだから急がねぇよ。
 保険請求の表も出来てたら今日貰ってく。」
「ああ。それも11月まで出来ている。窓口収入の分は…ああ、あった。
 これは12月まで出来てるけどどうする?」
「んー。12月分はまとめてもらうから今日はいいや。」
「わかった。保管しておくよ。
 で、今日はどうした?
 具合でも悪いのか?」
「いや。あの…さ。お前精神科っつーか、神経科は専門じゃないよな?」
少し驚いた顔をしている。
無理もねぇよな。
オレは自分で言うのもナンだがかなり健全で前向きな精神をしている。

「まあ。このご時世、不眠症なんてめずらしくないからな。
 そのあたりの患者を診ることはある。
 一応大学では履修しているし。」
そうか。めずらしくないのか。
「そういえばお前も不眠症に近かったよな。睡眠導入剤でも欲しくなったのか?」
「いや。…オレじゃなくて。」
「まさかアルが?」
「いや、あいつは他人を精神的に追いつめて楽しむことはあっても、あいつの精神は傷一つつかないと思うぞ。」
「それも随分な言い方だが、…そうかもな。」
思わず2人で笑ってしまう。
ああ、こうして精神を解していくのがプロなのかも知れないな。

「知り合い…がさ。精神安定剤を多用しているようなんだ。
 その…ルジョン、お前なら口外しないよな?」
大丈夫だとは解っていてもオレ自身じゃなく男のことなので確認してしまう。
「お前もオレも守秘義務は絶対だろ?」
それでも気に障った顔もせずにオレを安心させてくれる。
「ん。すまん。解ってはいるんだが。」
なんて言葉を続ければいいのか迷う。

「ふーん。」
「あ?なに?」
「とうとう大切な人を見付けたのか。」
「! なんで解ったんだ?」
あ、今オレ様語るに落ちました。

「解ってるはずの確認をしてしまうほど大切にしたい人なんだろう?
 ガキの頃からお前、いつも同じタイプの娘と付き合っちゃあ振られてたよな。
 その時よりずっとその人を想ってるのが見て解るよ。
 やっと見付けたんだな。おめでとう。」
「…。」
オレは何も言えなかった。
そうなんだけど。
そいつ、男なんだよ。

「と、すまない。
 手放しで祝える状況じゃないからここに来たんだよな?」
ああ。こいつんとこ来てよかった。
「ああ。その…二重に医者んとこ行って薬を貰うって手があるだろ?
 それでかなり薬を貰って飲んでるみたいなんだ。」
「安定剤を?」
「と、睡眠薬。睡眠薬の方はそんなに飲んでないみたいなんだけど。」
「んー。」
背もたれに背を伸ばすように預ける。

「あのさ、エド。
 それは良くあることなんだよ。特に不眠症患者にはな。」
「は!?よくあるのか?」
「うん。もうな、不眠症患者にとって眠剤なんてなぁ枕と一緒で、いつも有って当然ってとこがあるんだ。
 いや、そうじゃない人の方が多いよ?
 多いんだけど、マジメに治療のために医者と相談して、薬も治るための一環として飲むっていうよりももう『眠るためのアイテムの一つ』と捉える人もいるんだ。
 そうなると、取りに来るのが面倒だからいっぺんに貰っておこうと言う発想もめずらしくない。
 オレんとこは希望者には、2週間後に一度電話を入れてくれるなら1ヶ月分眠剤を出すようにしている。
 電話でも診療に該当するからな。」
ま、そういって電話もしないヤツが多くて困ってるけど、と苦笑するこいつは思ったよりも神経科の仕事をしているのかも知れない。

「治す気がない人間に多いのか?そういうの。」
「うーん。治す気がない…か。
 ちょっと違うと思う。」
しばらく言葉を選んでいるようだった。
「その人は、眠剤よりも安定剤を多く飲んでるんだよな?
 昼間にも?」
「ああ。そうみたいだ。夜寝る前にも飲んでるみたいだけど、朝にも飲んでると思う。
 夕方…は解らない。」

「んー。複数の医者に行く患者によく見られる特徴は、治す気が無い訳じゃなくて、治らない、若しくはこの医者には自分が治せないと思っていることだ。」
「は?」
「おそらくどの医者に行っても
『お加減は如何ですか?』
『あまり変わらないようです。薬をまた戴けますか?』
『解りました。』
って当たり障りのない会話をして、薬だけを貰っていると思うんだよ。」
「ああ。そうかもな。で?」

「その人、頭いいだろ?それもかなり。」
「ああ。それは保証できるな。」
「医者なんかに相談しても、自分は治らないと思っている。
 その人にとっては医者の方が何を考えているかが解ってしまうくらい底が浅く見えて、自分の精神を預ける気にはならないんじゃないかな?」
「…そんな不遜なヤツじゃないぜ?」
思わずしかめたオレの顔が可笑しかったのか笑われてしまった。

「責めている訳じゃないんだよ。そう思われても当然なところがこっちにだってあるんだ。
 オレは確かに医者だけど、人間としてはまだまだ未熟だ。
 それが喩えば人生経験豊富な60代の人の精神を救えるかっていうと、また別問題だろ?
 お前だって税金と会計のこと以外でずっと年上の人をなんとか出来ると思うか?」
「う…。そうだけどさ。それでいいのか?精神に関するプロなんだろ?」
「そこが人間の精神の難しいところだ。
 治す気があって、オレを信頼してくれて治療にあたるんなら、なんとかいい方向へ持って行くさ。
 でもハナから治す気も相談する気もない人間は救えないよ。
 そうだろ?」

「うーん。じゃ、どうすればいいんだ?」
「今その状態じゃオレにできることはない。
 ただな、お前がその人の相談に乗ってその人の精神の傷や背負い込んでいるモノを吐き出させて言葉にさせて、それでお前の手に負えないけれどその人が治療を受ける気になったら。
 その人がオレを信頼してくれたら。
 その時は手助けができるかと思う。
 できるとは言い切らないけどな。」
「なんで?」
「…プロだから。」
「は?…逃げかよ!?」
「そうだ。お前だって予想税額をいつも多めにオレに言うだろ?」
「う…。プロだからな。」
「そういうことだ。」
なんか食えないところがこいつとあの男は似てるかも知れない。

「なんか実りがあったんだかなかったんだか。」
溜め息を付くオレに
「一番の治療法を教えてやろうか?」
やわらかく笑って欲しかったモノをオレの前に持ち出す。
「あるのか?オレに出来ることか?」
「ああ。お前にしか出来ないことだ。
 条件があるけどな。」
「なんだ?」
「お前がその人を本当に愛していて、相手もお前を愛していることだ。」
「はい!クリア!!」
ぽん、と膝を叩いたオレに、ぷっと吹き出して楽しそうに笑っている。

「本当に見付けたんだな。お前。
 ああ、条件をクリアしているんなら、『抱きしめる』ことだよ。」
「は?で、治療法は?」
「だから、『抱きしめる』ことだ。
 何があっても、その人がどんな傷を持っていても。
 お前がどんなことが有ってもその人を見捨てないという精神で、その傷から目を逸らさずに『抱きしめる』ことだ。
 肉体的にだけじゃない。精神的にもな。
 全てを受け容れて包み込んでやれ。
 傷は無理に治さなきゃいけないモノじゃない。
 抱えたままだっていいんだ。
 ただ、それを痛まないように愛して包み込めば人間は生きていける。」
しばらく言葉の意味を考えてみた。

「なんだか解ったような気がするけど、具体的には解らないな。」
正直に言う。
大切なことだから。
「うん。そうだな。オレにも本当は解らないんだよ。
 人は一人一人違うから。
 その人に合った抱きしめ方がそれぞれ違うからな。」
そこで言葉を切って、オレを見つめ直して続けられた声は低かった。
「…エド、ただ一つ、よく考えて守って欲しいことがある。」
急に空気が張りつめた気がした。

「…なに?」
今までの人当たりの良さがまるで無くて、こんなに厳しいこいつの顔は見たことがない。
「今言ったことは、お前が何があってもその人を見捨てずに愛し続けると言うことが前提なんだ。
 もし、あまりにその傷が大きいから、あまりにその精神の闇が大きいから。
 あまりにその人間の存在が重すぎるからとその人から離れる可能性が少しでもあるというのなら、絶対にそれをするな。
 途中で手を離すくらいなら、最初からその人の傷に触れるな。
 いいか。最初によくそのことを考えておけ。」
それは人間の精神に関する絶対的な言葉だった。
その大切さはオレにもよく解った。

「これは脅しじゃない。解るな?」
「…ああ。」
「中途半端に傷をさらけ出して放られたら、程度にも依るが最悪の事態も考えられる。
 正常な判断力を失いやすいからな。」
ごく、と自分の喉が鳴ったのが解った。
「ああ。」
いつの間に握りしめていた拳が痛んだ。
爪が食い込んでいたようだ。
掌を広げてその爪痕を見た。
「解った。よく考えてみる。」
「ああ。そうしてくれ。」
告げられる声は厳しいけれど、オレとあいつを心から思ってくれているのはよく解った。

「なあ。安定剤って、多用しても大丈夫なのか?」
疑問をぶつけてみる。
「うーん。実は多用し過ぎると内臓に負担が掛かることがあるんだ。
 あと、逆に不眠を引き起こすこともある。」
「不眠症に効くのに?」
「ああ。人間の精神はそれだけ複雑ってことだ。」
「なら、やめさせた方がいいのか?」
「いや、無理に量を減らすと妄想を引き起こしたり、幻覚を見ることもある。
 急に減らすのは却ってマズい。」
「難しいんだな。」
オレは俯いてしまった。
「まあ、しかし言われた用量まで減らすことは必要だな。
 薬の袋に用量が書いてあるだろう?
 先ずはそれを守らせてみることだ。」

まだオレは顔が上げられなかった。
コトの重さに押し潰されそうで。
その時、ふとその場の雰囲気が和らいだ。
笑ってくれた、とその時解った。
「ま、焦らずよく考えろ。
 今日までその人は生きてきたんだ。明日だって生きているさ。」
笑ってオレの肩をぽんと叩く。

「それが大人ってもんだ。
 ところでその人は何歳くらいなんだ?」
う…。
「さ…33歳…。」
げっ!と目を見開いて仰け反ったのが見えた。
「それは…随分…。」
さっきより慎重に言葉を選んでいるのが解る。
「…熟女だな。…まさか人妻ってことはないよな?」
うー。ここまで来たらオレも正直に言うしかないよな?

「違う。ずっと…10年前からオレを愛してくれてた。
 …その…男…なんだ。もちろん未婚だ。」
「じゅ…10年前って!…お前まだ9歳じゃないか!?
 って、男!?
 あ、いや愛情に性別はないとオレは思っているが。
 9歳に…。いや、男…。」
混乱させてしまったようだ。
「大丈夫か?」
オレの方が心配になってしまった。

「ああ。いや、すまない。
 本当にオレはまだまだ未熟だな。
 なあ…エド。お前、幸福なんだよな?
 その人を選んで。」
「ああ。そりゃあもう。
 あんなかわいい美人はいない。
 オレはきっと何があってもあいつを愛せるよ。」
「そうか…。
 うん。幸福になれよ。
 何かあったら連絡してこい。
 診療時間が終わってもオレは大概家にいるから。
 いつでも駆けつけてやる。
 住所、置いて行けよ。一緒に暮らしているんだろう?」
「ん。住所はここに書けばいいか?
 オレの事務所のすぐそばだ。地図も今書く。」
薬剤の名前のプリントされたメモ帳に男の家の住所と簡単な地図を書く。
ついでに家の電話番号も書いておいた。

「これだ。…無いことを祈るが、何かあったら頼むな。」
「ああ。出来る限りのことをさせて貰うよ。
 しかし…男…9歳…。
 エド!本当にお前、幸福だな!?」
「幸福だって。」
気持ちは嬉しいが苦笑してしまう。
「いや。偏見は敵だ。しかし…いや…。」
今度はオレがこいつの肩を叩いた。

「ああ。偏見は敵だぜ?
 特に医者にとってはな。」
「ああ。すまない。車で来てるのか?」
「ああ。」
「そうか。気を付けて帰れよ?」
電車だったら送ってくれるつもりだったんだろう。

「有り難う。あ、あのさ。」
「ん?どうした?」
「オレ、お前のこと信頼してずっと付き合ってきたのは、きっとお前があいつに似てるからだったんだって、今気付いたよ。」
「そうか。」
いつもの笑いを浮かべて返事を返してくる。
「でもな。悪いがオレは女が好きだ。
 お前の想いに応えられなくてすまないな。」
な!?

「逆だ!オレはあいつが好きだから…!」
「ははは。照れるなよ。オレも友人としてお前が好きだ。」
ホントにこいつとあの男って似てる。
「だーかーらー!」
「冗談だ。本当に何かあったら連絡しろよ?」

礼を言ってオレは診療所を後にした。
その看板には大きく
『皮膚科』と書いてある。
「医者も多角経営が必要なんだな。」
思っていたより多才な友人に心からの讃辞を送った。




Act.17

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