F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.37
「遊 脇道」Act.37
08.12.26up
オレの家には戻れない。
きっと明日の朝にでも男から連絡が入るだろう。
どうして戻れないかなんて家族に話せる訳がない。
ルジョン…の家にこんな夜中には行けない。
オレの脚はいつの間にかウィンリィの家に向かっていた。

「ごめんな。こんな夜中に。」
起きててくれて助かった。
部屋の灯りがついていたから、窓に小石を投げて開けて貰った。
「別にいいけど。
 一体どうしたのよ?」
コーヒーの入ったマグをオレに手渡しながら聞いてくる。

「家に…帰れないんだ。
 オレ、もうあいつとは居られない…。」
ぱしゃ、とウィンリィのマグのコーヒーが波立った。
「なんで?
 …あたしの…せい?」
ただでさえでっかい瞳が零れんばかりに開かれている。

「違うよ。
 お前のせいじゃない。
 …オレのせいなんだ。」
苦笑いしかできねぇや。
こいつを安心させてやんなきゃならないのに。

「どうして?
 エドがナニをしたの?」
ああ、こいつんとこを選んだのは無意識に罪を告白したかったからかも知れない。
「オレが…あいつの精神を壊したから。
 あいつさ、ずっと精神安定剤で平静を保ってたんだ。
 前の…大佐の時から精神を壊しててな。」
オレの言葉にもっと瞳を見開く。
おい、目玉が落ちちまうぞ?

「あんなに強かった人が!?信じられない。
 …どうして?
 あ、イシュヴァールのことで?」
「違う。
 イシュヴァールのこともお前の両親のことも、ヒューズ准将のことも確かにあいつの傷で、あいつは精神に闇を持っていたけど。
 精神が壊れたのは…オレがあいつを置き去りにしちまったからだ。
 …向こうの世界へオレが行っちまって。」
「…。」
しばらくウィンリィは考えているようだった。

あいつにオレがいなくなってからのことをこの間詳しく聞いていたこいつには解ったのだろう。
「そう…かも知れない。
 でもそれであんたがロイさんから離れてしまっていいの?
 だからこそ側にいてあげた方がいいんじゃないの?」
「いられねぇよ!
 あいつを壊して狂わせて。
 それでオレが側にいることなんて赦されない!
 あいつにどの面下げて逢えばいいんだ!?」

頭を抱えて蹲ったオレに、ややしばらくして言葉が落とされた。
「解った。
 仕事の方は今ヒマなんでしょ?
 しばらくここにいるといいわ。」
思わず顔を上げた。

確かに今月は決算が一件もない。
それはアルから聞いて知っているのだろう。
「ロイさんに逢いたくないんでしょ?
 アルにもロイさんにも黙ってるから。
 あんた少し自分の精神を整理した方がいいわ。
 今は気付いてしまったばかりで混乱してるのよ。」
ぽん、とオレの頭を叩く。

「あんたは床ね。
 今布団を持ってくるから。
 あ、アルにしばらく仕事を休むってメールしときなさいよ?」
言うなり部屋を出て行った。

オレは肩から力が抜けるのを感じた。
自分が緊張していたことにそれで気付いた。
男と逢わなくて済む。
それは今オレが一番欲しいことなのかも知れない。

マットと掛布団を抱えて戻ってきたウィンリィはその晩、もう男のことに触れようとはせず昔話を楽しげに話してくれた。
オレ達の小さい頃のこと、前の人生での幼い頃の楽しかったこと。
そんな思い出話を出来るのは今こいつだけなんだな。
幼なじみの心遣いに感謝しながらも、その夜とうとうオレは眠ることが出来なかった。


翌日、オレは携帯の電源を切ったままにしておいた。
ウィンリィの家にも男とアルから電話が掛かってきたが、ウィンリィが口止めしてくれたんだろう。
おじさんもおばさんも何も知らない素振りを通してくれた。

その日は一日ウィンリィの部屋に籠もって自分の罪と男のことを考えていた。
これからどうすればいいんだろう?
男の側にはもういられない。
与えられた贖罪の人生をどう生きていかなければいけないのか。
…男はどう思ったんだろう。
罪を受け止めて苛まれて生きると思っていたと言っていた。
ならばオレはどうすればいいんだ?

男はかつて
『門を抜ければ君に逢えると信じていた。』
と言った。
寝言でだったが。
それは何度男が試みようとしたことだったんだろう。

アルはこちらの世界を全て捨ててオレのところに来てくれた。
それは、オレもアルも子供だったから。
男は…大人だったから全てを捨てることが出来なかったんだ。
(オレ達を護る為にも残るしかなかったんだけれど。)
母さんの人体錬成をしたのも、『門』を造って二つの世界を繋げてしまうことも、オレとアルが子供だったから出来たんだ。

男には出来なかった。
オレに逢いたいと…門を抜ければオレに逢えると知っていても、それを造ることは出来なかった。
自分の願いを叶えるために払われる犠牲の大きさを知っていたから。

優秀な錬金術師だった男には、その気になれば門を造ることがきっと出来た。
ホムンクルスがいるかどうかという問題はあっただろうが。
それでも大人だった故に自分の願いのためだけに全てを捨て去ることのできない男には、それを行動に移すことは出来なかったに違いない。

どれだけ…オレに逢いたかったんだろう。
どれだけ…自分の願いを押し殺して苦しんだのだろう。
その死の瞬間まで。

その精神を壊すほどに。


その翌日、オレは診療の休み時間にルジョンのところを訪れた。
「よお。昼休みに悪いな。」
オレの顔を見てナニか感じたのだろう。
「どうした?何があった?」
真剣な顔で聞いてくる。
「オレ…もうあいつといられないんだ。
 あいつを壊したのはオレだったんだ。」
「な…マスタングさんから離れるのか!?
 それをあの人に言ったのか!?」
こんな厳しいこいつの声は聞いたことがない。
先日の時よりもずっと激しい声だ。

「オレがあいつの精神を壊してたんだよ!
 側にいられるわけがないだろう!?」
「どうしてだ!?
 順を追って話してみろ!」

オレはこの前、過去のことを話したがオレが男を置き去りにしてあちらの世界に行ってしまったことまでは話していなかった。
門の向こうの世界のことまでは必要がないと思ったから。

最後まで話を終えたオレをいきなりルジョンが殴った。
「それでお前はあの人を捨てるのか!?
 オレがなんて言ったか憶えてないのか!?
 何があっても最後まで見捨てない覚悟がなければ傷に触れるなと言ったろう!?
 鍵を貸せ!
 家の鍵を!」
オレが差し出した男の家の鍵を引ったくるように取り上げた。

「ここにいろ!
 すぐに連絡する!
 いいか!?
 絶対逃げずにここにいろよ!?」
その剣幕にオレはただ頷くしか出来なかった。

どの位の時間が経ったのかオレには解らなかった。
ルジョンの家人から病院の名前を聞くまでの間に。
オレはまた走った。
どうしていいのかはまだ解らないまま。

病院の入り口にルジョンが立っていた。
「801号室だ。
 薬を飲んだのは午前中だろう。
 今回は命に別状が無く済んだ。
 だがな。
 これがおまえのしたことの結果だ。
 覚悟も無しにあの人の傷を暴いて見捨てた。
 『何があっても』という言葉の意味を、もう一度よく考えてみるんだな。
 …マスタングさんの家の寝室へ行って着替えを持ってきてやれ。
 オレはまた明日様子を見に来る。」
鍵をオレの手に落とすと、オレの言葉を待たず去っていった。

病室では今までルジョンと話していたためだろう。
ベッドの上半分を起こしてそれにもたれていた男がオレを見て眼を見張った。
「来てくれたのか。」
「大丈夫なのか?」
「ああ。胃洗浄はつらかったがね。」
男の顔は穏やかだった。

「今は…落ち着いてるのか?」
「ああ。安定剤を飲んでいる。
 薬を溜めないように看護婦が飲み下すまで監視をするんだ。
 信用されていないんだな。」
苦笑するその表情は儚い。
オレは立ちつくしたままなにも言えなくて俯いてしまった。

「…死のうと…思ったわけではない。
 ただ、君が帰ってくるまで少し長く眠りたかった。
 夢を見ずに、ただ…眠っていたかっただけなんだ。」
ぽつり、と男が呟いた。
「…オレが…帰らなかったらどうするつもりなんだ?」
「…戻ってきてはくれないのか?」
「あんたを…あんたの精神を壊してしまったのはオレだ。
 オレはあんたと一緒にいる資格がない。」

オレの言葉にしばらくして男が口を開いた。
「資格…か。そんなものは君が君でいてくれるだけで私には充分なのに。」
それでもすべてを赦そうとする男に甘えてしまうことはできない。
「そん…な訳には…いかねぇよ…。」
顔が見られないまま呟く。

「君が…もう戻ってきてくれないのなら、やはりもう私は泡になってきえてしまいたいな。
 次に君にまた出逢えるまで。
 それとも何度生まれ変わって出逢っても、君は私を置いて行ってしまうのだろうか。
 だとしたら…私はなんの為に産まれてくるのだろうな。」
人が産まれて来る理由。
オレにとって今までそれは『幸福になる為』だった。

「やはり贖罪のために産まれてくるのだろうか。
 私は。…ただ罰を受け続けるために。」
それはオレだ。
あんたじゃない!

「あんたの幸福って他にないのか?
 目標とか…生き甲斐とか。」
やっと顔を上げて男を見ることができた。
「…そう言うものを持つのが怖いんだ。
 理想や生き甲斐が突然なくなってしまう虚しさを知ってしまっているからね。
 怖くて持つことが出来ない。
 …君だけだ。
 君だけは求めることを止められない。
 無くす恐怖に怯えながらも君だけは求めてしまうんだ。」
なぜなのだろうね?と微笑む顔は哀しかった。

「幸福になるためには…オレが必要なのか?」
「ああ。私の幸福は君と居ることだよ。エドワード。」
「少し…考えさせてもらえないか?」
「ゆっくり考えてくれたまえ。
 贖罪の意識だけで私と共ににいるのでは君が幸福になれないだろう。
 私は『君と一緒に』幸福になりたいんだ。」
それでもオレの幸福を一番に考えてくれるところは大佐のままなんだな。

オレは泣き顔を見られたくなくて男に背を向けた。
「また来る。なんか欲しいモノあるか?」
肩と声の震えで誤魔化すことは出来ないだろうけど。
「そうだな。君の作った料理が食べたい。」
「解った。リクエストはあるか?」
「なんでも。君の作ったモノはなんでも美味しい。」
「待ってろ。作ってきてやるから。」
言い残してオレは病室を後にした。


男のいない家の中は妙に寒々しかった。
この寂しい家で男はここ2日間を過ごしていたのか。
…どんなに怖かっただろう。
オレがいないことにあんなに怯える男が。

また無くしてしまったのだと。
もう戻らないのだと。
その絶望があの男に残っていた大量の薬を飲ませてしまったのか。
オレが…再び与えた絶望が。

それでも男とこのまま自分の罪に口を拭って暮らしていく訳にはいかない。
そんなに赦されて甘えることはできない。
オレはどうすればいいんだ?
男への弁当を作りながら結論のでない思考を繰り返す。

寝室から着替えを持って行けと言っていたな。
「!」
ドアを開けて最初に瞳に入ったのは床に散らばる大量の薬のパッケージだった。
男がこんなに一度に飲んだのだということに頭を殴られたような衝撃を受けた。
死ぬつもりがなかったなんて嘘だろう?

そしてベッドに散らばったオレの服。
スーツ、セーター、トレーナー。ああ、パジャマも。
オレの服を抱いて眠っていたのか。
それともオレの匂いに包まれたまま死のうとしたのか。
枕元にはこの前の旅行の写真がやはり散らばっていた。

「…っ!」
その場に座り込んだ。
脚が震えてもう立っていられなかった。
オレは…
「どうすればいいんだ?」
声をあげてオレは泣いた。


「べんと…届けなきゃ…。」
その前にこの部屋をなんとかしよう。。
男が退院したときにこの惨状を見せたくない。
自分の選びかけたことをもう一度考えさせたりしたくない。
オレは部屋を片付けてから病院に向かった。

病室に入ったオレの顔を見た途端、男は嬉しそうに笑った。
いつものように。
まだ…そうやって笑いかけてくれることにオレは胸が詰まった。
きっと苦しそうな顔になってしまったんだろう。
そんなオレを見た男の表情から笑いが消え、目を伏せて俯いてしまった。

「!」
失敗した。
オレは笑い返してやらなきゃならなかったのに。
そんな躊躇ったような申し訳なさそうな顔をさせたいんじゃないのに。

「あ!あのさ!弁当、作ってきたぞ!」
オレはもっと明るい声を出すのが上手かったハズなのに。
顔が自分のモノじゃないみたいだ。
どうしても引きつったような笑いになってしまう。
思うように筋肉が動かない。

「あ…ああ。ありがとう。」
顔を上げた男の笑顔もぎこちない。
ああ、こんな顔をさせたいんじゃないのに。
嬉しそうな男の笑顔を守るためならかなりの犠牲が払えそうだと思ったのは、ホンの数ヶ月前のことだったのに。

ベッドに渡されたテーブルの上に弁当を置く。
「…。」
「…。」
オレはなんて言っていいのか解らなかった。
男も黙って弁当を見つめている。

これ以上笑うことも難しくて
「明日、弁当箱は取りに来るから。」
言葉を絞り出すと
「え…!?」
慌てて顔をあげ、何か言いかけてくる男に応えず病室を出た。

だって…ナニを言えばいいんだよ?
謝るのにも、なんて言い出せばいいんだか解らないし。
エレベーターを降りてロビーまで来たところで、まだ腕に着替えを入れた袋を下げていることに気付いた。
あー。
これは置いて来ないとマズいよな?
仕方がない。
オレはもう一度エレベーターに乗った。

そっと引き戸を開くと男が少し窓の方に頭を傾けている姿が見えた。
すこし目蓋を伏せ、眉を顰めたその顔はとてもつらそうで。
「…っ」

静かに男は泣いていた。
薄く開いた瞳から次々と涙が零れて。
シーツを握りしめて、唇と肩を震わせながら。
それでも静かに男は泣き続けていた。

それはオレが出て行ってからの毎夜の男の姿。
オレが門の向こうに消えてから男が死ぬまで続いた毎夜の男の姿。
「…エドワー…」
かすかに聞こえた声に応えることは出来ない。
着替えは明日にしよう。
オレはそのまま病院を後にし、男の家へと帰った。

「あー、ウィンリィ?
 あのさ。オレ今あいつんちに帰ってんだわ。」
心配しているだろうと電話を掛けた。
「ああ。仲直りできた?」
安心したような声に申し訳なくなる。

「いや…あいつ…今病院にいる。」
「! それって!?」
「ああ。安定剤を大量に飲んだんだ。睡眠薬も一緒に。
 とりあえず発見が早かったから心配はない。」
「…。
 それで…どうするの?
 帰る決心が付いた?」
つかない。
解らない。

「解んねぇんだ。
 でもこのまま側にいることは赦されないと思う。
 あいつが退院するまでに身の振り方を決めねぇとな。」
偽らず告げたオレにしばらく経ってから返事が返ってきた。
「赦すかどうかはロイさんが決めることじゃないの?
 あんたがそう決めるのはどうなのかな?」
「オレがあいつの精神を壊したんだぜ?
 あいつが赦してもオレが自分を赦せないんだよ!」
あいつはオレのことなんか赦しちまうに決まってる。

「…そう。
 もう少し考えるんだわね。あんたは。
 そういう時間が必要よ。
 ただ、ロイさんをあまり待たせない方がいいわ。
 今回のことでそれは解ったでしょ?」

オレが去るときには人魚姫になりたいと言った男。
オレが戻らないなら泡になって消えてしまいたいとさっきも言われた。
それでも。

「解らねぇ。」
「だから考えなさいって。
 毎日お見舞いには行くのよ?
 ちゃんと顔を見せて。
 できれば2人で考える方がいいと思う。」
「ああ、食事を持って見舞いには行く。
 あいつは…オレを赦すことしかしねぇよ。
 だから話になんねぇ。」
「なるかならないかも。
 これからあんたは考えるの。
 とりあえず顔を必ず見せなさいね。
 絶対よ。」
念を押してウィンリィは電話を切った。


翌朝アルには改めて男が病気でしばらく2人とも仕事を休むと連絡をした。
ウィンリィが既にそう言ってくれていたらしく、すんなり話は受け止められた。
見舞いに来るというアルに大丈夫だからと仕事の方を任せた。

朝メシを持って病室に行くとルジョンが既に来ていた。
「早いな。」
「ああ、エド。おはよう。
 午前の診療の前に見舞いにと思ってな。」
相変わらず面倒見のいいヤツだ。

「おはよう。エドワード。
 今日の朝食は何かな?」
まるでいつものように落ち着いた顔だ。
薬のせいもあるんだろうが、ずっとこうして自分を偽り続けて来たんだな。
オレは内心、やりきれない気持ちを抑えることが出来なかった。

「ああ、朝だからな。別に変わり映えもしねぇよ。
 汁物を持ってこられるように後で弁当箱を買いに行ってくる。
 あったかいスープとか飲みたいだろ?」
「ああ。それは嬉しいな。」
それでも男の笑顔を見るとホッとする。

「それじゃ、オレはこれで。」
ルジョンが立ち上がる。
「ああ、ドクター。有り難うございました。」
「いいえ。お大事に。」
人の良い笑顔を浮かべて病室を出て行った。

「いい人だな。」
ベッドに座ったまま見送った男が言う。
「ああ。いいヤツだろ?
 昔から面倒見が良くて人当たりがいいんだ。
 神経科の医者にはもってこいだよな。」
「ああ。そうだな。」

男が朝食を食べ終わり、空の弁当箱を昨日の分と一緒に持って帰ろうとすると袖をそっと掴まれた。
「もう…帰るのか?」
寂しそうな不安な顔。
オレにだけ見せる…。

愛おしい。
それは今でも変わらない。
自分の気持ちが変わった訳じゃない。
ただ…自分を赦せないだけだ。

「昼メシを作りに帰らないとな。
 また昼時に来るから。」
男の髪を撫でる。
なんだか久しぶりだ。

「昼…。エドワード?仕事は?」
ようやく気付いたようだ。
「ああ、今月は決算もないし、源泉周りは終わってるからな。
 しばらく休みを取ったよ。」
「そう…か。すまない。」
また躊躇ったような顔で俯いてしまう。

「気にするな。あんたの仕事の方もホークアイさんがなんとかするって言ってたから。
 後で来てくれるそうだ。」
今朝税務署にも連絡をしておいた。
「私の方はどうでもいい。」
もう消えるつもりだからか?
そんな哀しいことは聞きたくない。
…言わせているのは自分だ。

ダメだ。
もう笑えない。
「じゃあ、後で来るから。」
袖を掴む手を振り解いて病室を出てしまった。

ああ。
また哀しませた。
本当にオレは…。
病室を出てエレベーターホールまで歩き、壁に寄り掛かる。
「どうすりゃいいんだよ!?」

いっそオレが消えてしまいたい。
しかしそれは一番赦されないことだ。
贖罪の生とはそういうモノなのかも知れない。






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