F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.20
「遊 脇道」Act.20
08.12.23up
「もう一眠りしろよ。」
シフォンケーキとマロンアイスのクレープを平らげて満足げな男に言う。
目の前に置いたときの感激っぷりはそりゃあすごかった。
ま、盛りつけにはオレも凝ったけどさ。
そんなに喜んでくれるんならまた作ってやろうって気になるモンだ。

しかし朝目覚めるのが遅かったとはいえ、熱が有るんだから眠った方がいい。
額に手を当ててみるともうほとんど下がってはいるが。
この前よりも熱が下がるのが早い。
この分だと慣れれば熱は出さなくなりそうだ。
よかった。
これからずっと週末しか抱けないかと思ったよ。

「ん。」
まだ胸から下がミノムシ状態で肩にガウンを掛けた男が素直に返事をする。
「どこで寝る?ベッド行くか?」
「センセイは?」
あー。独りじゃベッドには行かないよな。
オレも心配だし。

「まだ片付けも保存食の用意もあるしな。
 じゃソファで寝てるか?」
「ああ。」
ゆっくりとだが独りで椅子から立ち上がる。
うん。歩けるようになるのもこの前より早いな。
多少無茶でも抱かれなければ慣れないというのは一理あるようだ。
無理はさせたくないけどな。

トイレに行ってくると言って男がリビングを出て行った。
安定剤を飲みに言ったんだろう。
明日熱が引いたら(もうほどんど引いているが)話をしよう。

戻ってソファに横たわった男に毛布を掛け直し、ぽんぽんとゆっくりしたテンポで肩を叩く。
「気持ちいい。」
目を細めて笑う。
そうだろ、そうだろ。
子供はこういうのが好きなんだよ。
「ん。こうしててやるから寝ろ?」
「ん…。」

「子守歌でも歌ってやろうか?」
冗談だったのに
「是非聞きたいな。」
微笑んで言われたら仕方がない。
母さんが小さい頃よく歌ってくれた子守歌を小さな声で歌った。

ああ、子守歌ってのは眠る相手が良い夢を見るようにと祈って歌うモノなんだな。
ふとそう思った。
歌を聞いて、幸福な夢を見て貰いたいと精神から願いながらオレは男が眠るまで子守歌を歌い続けた。


食器を洗い、保存食も用意が終わった。
手を拭きながらオレはソファで眠る男の様子を見る。
ぐっすり眠っているようだ。
さっき薬を飲んだんだろうし、この分だとまた夜まで瞳を覚まさないだろう。

ふとベランダに続く窓を見ると雨が降っていた。
今日は冷える。
雪に変わるかも知れない。
これ以上具合が悪くならないようにとヒーターを強め、もう一枚毛布を男に掛けた。
時間の余ったオレは宝の山から会計の本を持ってきて読むことにした。


どの分野の本でも同様なんだろうが、会計の本では特に、以前に書かれた本の一部を引用して説明をすることが多い。
経済の状況が変われば会計の方法や表記も変わる。
その変化の流れに沿って会計を読み解いて行くことが主題の会計本には、特に古い会計本の記述の引用が多くなる。

会計本を読んで理解していく楽しみは、その本が書かれた時点の会計のあり方と表記方法を理解し、更にその引用元を読んでそれ以前の会計のあり方等の理解へ、とどんどん深く潜って行くことなんだ。
平たく言うと、引用元の本へと遡りそれを読んで、更にそこに書いてある引用元の本を読んでいくのがディープな理解と楽しみを産む。

通常ではそんな贅沢は出来ないが、きっとこの男の蔵書なら可能だろう。
オレは興味のあるテーマの内、以前読んだことのある一冊の本を書庫から持ってきた。
本を開きその引用部分を探す。

あった。
しかも引用部分には男の字で引用元とこの作者のとらえ方の違いが書き込んである。
やっぱり引用元の本もここの家にあるんだ。
オレはワクワクしてまた書庫へ向かった。

やっぱりある。
しかもその本を開いて引用部分を探すと、更にその引用元の本もその隣にあった。
どちらにも男の字で解釈や男自身の考え方などが書き込んである。
たまらん!

本への書き込みは既に男に了承を取ってある。
しかしただ書き込んで疑問や自分の解釈を持つだけではつまらない。
これについて男と議論をしたらどんなに楽しいだろう。
オレは自分の部屋からポストイットとシャープペン、赤ペンを持って書庫へ戻った。

一番後に書かれた本を先ず読んで、疑問点をポストイットに書き込んでそのページに貼る。
男はどんな解釈を持ち出すんだろう。
オレはこう思うけど、と自分の解釈を確立しながら読み進んでいく。

ああ、これをノートにまとめたいな。
また部屋からレポートパッドを持ち込んで自分の理論を構築する図を書いていく。
それ以前に書かれた本の記述も後から書き込めるようにかなりの余白を空けて。

一冊の本に引用されている本はもちろん一冊ではない。
その引用元も並べて書いておくと解釈が更に楽しくなるだろう。
オレは別のレポートパッドの一番上に本のタイトル、それからテーマ毎に引用されている本の名前を書き並べていった。
こうすれば遡って読むのも効率いいだろうしな。

読んで理解しながら、疑問点や自分の解釈と違う点をポストイットに書いて貼る。
そこには大概男が既に書き込みをしているので、それに感心したり更なる疑問を持ったりしながら。

オレは夢中になっていた。
何冊も平行して読み、更に読めば読むほど手に取る本は増えていくので書庫の入り口にあるテーブルに運ぶのも面倒で、本棚の前に座り込んで作業に熱中した。


ふと何冊目かのテーマをまとめ終わって息をついたとき、玄関の方で物音がしたことに気付いた。
あれ?
男が起きたのかな?
なんで玄関?(書庫とオレの部屋は玄関の隣だ。)

本を並べ直して玄関へ向かう。
「!?」
そこにはずぶ濡れの男が息を切らして立っていた。

「どうし…」
「センセイ!どこにいたんだ!?」
靴を脱ぐのももどかしそうに放り投げるように脱ぎ捨て、抱きついてくる。
冷たい。躰が冷え切っている。

「どこって、オレは書庫にいたよ?」
「いなかった!声を掛けても返事がなかった!!」
しまった!
オレは本に集中すると声を掛けられても気が付かない。
きっとオレには男の声が聞こえていなかったんだろう。

オレが座り込んでた本棚は、書庫の入り口からは見えない位置だったんだ。
男は書庫のテーブルにオレがいなくて返事もないから、いないと思ってしまったんだろう。

男はジーンズにシャツとカーディガンを羽織っているだけだ。
雪になりそうだっていうのに。
まだ息が荒い。
走ってきたようだ。

「あんたどこに行ってたんだ?」
こんなずぶ濡れでは風邪をひいてしまう。
とにかく風呂に入れなくちゃ。
「また事務所にいるのかと…事務所まで探しに行っていた。
 携帯にも出ないし…。」
携帯はマナーモードのままキッチンに置きっぱなしだったな。

「悪かった。本に夢中になってたんだ。
 とにかく風呂に入れ。このままじゃ風邪ひいちまう。」
男は震えたままオレに抱きついて離れない。
「厭だ!離れたくない!センセイはきっとまたどこかに行ってしまう!」
泣いているんだろうか?
オレの肩に顔を埋めているので解らないが、こいつは安定剤を飲んだんじゃ無かったのか?
この取り乱しぶりは普通じゃない。

「オレはどこにも行かないよ。ほら、こんなに躰が冷えて。
 な、風呂に入って温まんないと肺炎を起こすぞ?」
背中を軽く叩いて宥めるが聞こうとしない。
「寒くない!」
あー。走ってきたからな。
そうかもな。

「そうか。でもな、実際あんたの躰は冷えていて、それに抱きつかれてるオレは寒いんだ。
 風呂に入ろうな?」
「いやだ!」
あー、もう。
仕方がねぇな。
「オレと一緒でも?躰を洗ってやる。ついでにキスも付けるぞ?」
「センセイ。早く行こう。」
変わり身、早!
男に手を引かれる形で風呂に向かう。
まあ、いいけどさ。
肺炎になられるよりは。

風呂が溜まるまで待つ訳には行かない。
男を湯船に座らせて、湯を溜めながらシャワーで男の躰を温める。
「なあ。オレが悪かった。
 本に夢中になって、あんたの声が聞こえなかったんだ。
 ごめんな。」

書庫に行く時点でメモを置いておくべきだったんだ。
オレは自分の迂闊さを呪った。
ほとんど下がっていたとはいえ、熱のあった人間を真冬の雨に打たれさせてしまった。
(今頃は雪になっているかも知れない。)
これで具合が悪化してしまったらどうしよう?

「ん…。怖かった…。センセイがいなくて…。」
ああ、やっぱり泣かせちまったな。
涙を零す男の冷たく濡れてしまった髪にもシャワーを当てながら、オレは謝り続けた。

「センセイ、熱いよ。」
ようやく泣きやめた男がシャワーの湯に文句を言う。
「湯は適温だ。だからあんたの躰が冷えてるんだって。」
ぶるり、と男の躰が震えた。
湯に触れて自分の躰が冷えてることをやっと自覚したらしい。
「寒い…。」
「そうだろ?ほら、肩も温めないと。」

蒼白になった躰はシャワーで温めるとそこが薄紅く染まる。
放り出した手も溜まり掛かった湯のせいで、指先がやはり薄紅く染まってる。
それは扇情的な眺めだった。

! ヤヴァい!
オレは下肢に血が集まるのを感じた。
バレただろうかと男の顔を見やると濡れた瞳で見つめてくる。
これは…。
「センセイ…もっと暖めて…。」
腕を伸ばしてオレの首に廻す。
「温めてるだろ?ほら、腕も寒いんならシャワー掛けるから。」
誤魔化してるのがバレバレなんだろうな。
つか、そう言う意味で言ってるんじゃないのはオレも解ってる。
けどさ、今日熱出したばっかだよな?
ここで無理をさせる訳には行かない。

「…抱いてくれたまえ。…センセイ。」
だからダメだって!
「躰に無理を掛ける訳に行かないだろ?」
あ、ちょっと声が裏返っちゃった。
「明日も休みだ。困ることはない。」
どうしてそんなとこだけ冷静かな?
「昨日も抱いたばっかりだろ?」
いや、抱きたいのは山々だけど。

腕の力を緩めてオレの瞳を濡れた瞳が捉える。
「欲しい…ナカが疼くんだ…。」
嘘付け。と思いながらもその言葉はオレの理性に快心の一撃を食らわした。

「あ?まだ感じないクセに…ナニ言って…。」
ああ。声に力がないよ。オレ。
「本当だ。センセイが欲しくて疼いてる。
 …確かめてみればいい。」

ダメです。限界です。
しかも風呂場なら持ってこなくても洗面器有るしな、とかどっかで考えちゃってます。

「オレ、あんたが大切なんだよ。無理をさせたくない。」
あ、今棒読みでしたかね?オレ。
と思う間もなくオレのモノに男が手を添え舌を匍わせてきた。
「っ! やめろって!」
もう充分勃ってるっつの!
も、ホントにダメだ。

「大丈夫…なのか?」
こいつに聞いてもムダだとは知りつつ聞いてしまう。
「大丈夫だ。」
だからそんなとこだけしっかりしててどうするのよ?

「ここには潤滑剤もないぜ?」
解さなきゃ入らないだろ?
「コンディショナーでも使えばいい。」
臨機応変な方デスネ。

「そんなんナカに入れたら後で困るだろ?」
「洗えばいい。後処理は自分でするから。」
さらりと言われたけど、結構衝撃発言デス。
後処理ってナンデスカ?
しかし無言で渡されたコンディショナーを指に絡めた時点で、オレは自分に負けたと知った。


「…ぅ…。」
ほら、そんな苦痛に満ちた声をあげるクセに。
だからといってそれが自分を押し留めないことに少し罪悪感を抱いた。
しかし昨日も抱いたせいで解れるのが早い。
もう3本の指は男の中で自在に動いている。
しかし腰に負担が掛かるよな。
今日もこの前も腰が痛そうな様子だったし。
まして昨日抱いたばっかだしな。

指を受け容れていた男を、バスタブの外で縁に手を添えさせて腰を上げると
「後ろ向きでは厭だ。」
文句を言われた。
「この方が腰に負担がないだろ?」
そう思ったんだが、オレ間違ってる?

「顔が見えないのは厭だ。」
だってあんた、ほとんど瞳を閉じてるじゃん?
「なんで?」
「…センセイに抱かれていると解らないのは厭なんだ。」
はあ!?
この状況でオレ以外に抱くヤツがいるとでも?

「オレしかいないだろ?」
聞くとしばらく返事が返ってこない。
「…それでも。
 …私を抱いているのがセンセイなのだと確認出来ないのは厭だ。」

うーん。どうしよう。
無理をさせたくないが、男の希望も無下にしたくはない。
「じゃあさ、ずっと声を掛けるのはどうだ?
 オレが抱いてるって解るように。」

また少し考えているようだった。
「ずっと?」
確認するような声がする。
「ああ。ずっと。オレがあんたの名前を呼んでいれば、オレが抱いてるって解るだろ?」
「…ん。それなら。」
納得してくれたようだ。

「じゃ、挿れるぞ?」
「ん…。」
ああ、背中までこの男は綺麗なんだな。
この背中にも所有痕を付けたい。
そんなことを思いながらオレは男の後孔に自分のモノを突き立てた。

「っ!…ふ…ぅ…」
それでも今までよりは苦痛が少ないのか、バスタブの縁を握りしめる手には力が入っているが、躰の強張りは少ないように感じる。
「ロイ。オレだ。エドワードだ。
 あんたは今オレを受け容れてんだよ?」
楽になる呼吸をして欲しくて声を掛けた。

「ん…ぁ…セン…」
ああ、ちゃんと躰を緩められたな。
「イイコだ…ロイ…。もう少しで最後まで入るぞ?」
「ん…。」
更に挿れ易いように躰を緩めて腰を上げてくる。
「ロイ…ロイ…!」
それでもキツイ腔中がオレを包んで締め上げた。

「あ…いいよ…。ロイ。すげえ気持ちいい。」
「ん…。ぁ…。」
言葉に煽られたのか男の腰が揺れた。
「ほら。根元まであんたんナカに入った。」
「ん…。っ…センセイ…!」
「も、寒くないか?」
「…ん。」

最後まで挿れて、しばらく男がオレの形に慣れるまで時間を置く。
その間にも何度も声を強請られ、その度に男の名を呼んだ。
オレの声を聞いて、更に躰が緩むのが嬉しい。

「動くぞ?いいか?」
オレの声に、まだ痛みしかないだろう男が頷く。
男が欲しがるまま何度も声を掛けながら、始めは緩やかに腰を動かす。

しかし思ったよりも激しくなってしまった律動に、苦痛の声をあげまいと男はまた指を噛んでいる。
その仕種はどうも戴けない。
「指を噛むな。傷になる。」
荒くなった息で告げて、その手を口から離して指を絡ませた。

「…っ!…は…ぁ…」
強張っていた躰が、繰り返すオレの動きに少しずつ変化した。
「?」
少し動きを止めてみると男のナカがオレを誘うように蠢いている。
今まで以上の快感がオレを襲った。

「…センセイ…もっと…。」
声に誘われるまままた腰を進めると男が躰を捩らせる。
「ん…ぁ…。ふ…。」
これはもしかして?
「な…あ。感じて…る?」
少しの間を置いて
「ん…。」
男が頷く。

うわあ。すげえ嬉しい。
自分だけじゃなくて相手も感じてるって、こんなに嬉しいモンだったっけ?
「あ…センセイ…声を…聞かせ…」
「ああ。ロイ。いいよ…。ロイ…。」
最早譫言のような声をあげてオレも夢中で男を突き上げた。
初めて交わっているときに勃ち上がった男のモノを扱きながら。

「ん…っ!センセイ…も…」
促されるまでもなく、オレもそろそろ限界だ。
男のモノを更に激しく扱いて奥まで突き上げるとびくびくと躰を痙攣させ、先に男が果てた。
その反応でナカが締め付けられ、オレもほぼ同時に達した。


「あ!」
しばらく2人で荒い息を吐いていたが、オレは突如として我に返った。
「センセイ…?どう…」
「ごめん!ごめんな!オレ、ナカに出しちまった!」
『優しいからされたことがない。』と言ってくれてたのに。
ああ。自己嫌悪。orz

「ああ…そんなことか。気にしないでくれたまえ。
 後処理で出せばいいのだから。」
こともなげに言うけど、それって?
「あ…後処理って?」
「ん?先程のコンディショナーと一緒にセンセイのを出せばいいだけだろう?
 それに私はセンセイのを受け止めたのは嬉しいぞ。
 …すまないが、センセイ。洗面器を取ってくれるか?」
感じるようになれば吐かないかと思ったんだが、そうでもないようだ。
男は受け取るなり吐き始めた。

「…ごめんな。」
背中をさすりながら応えられないと知っても言ってしまう。
それでも食事の前だったせいか、苦痛が少なかったのか吐く量は少なかったようだ。
吐き終わった男に
「大したことはない。気にしないでくれたまえ。」
と逆に頭を撫でられてしまった。

『後処理』をすると言う男にオレは風呂場を追い出された。
見られたくないそうだ。
オレも不甲斐ないと自分でも思うが、見たくはない。

しばらくしてベッドに来て落ち着いた男が
「…思ったより早かったな。」
オレに言うともなく呟いた。
「あ?ナニが?」
聞き返すと
「ああ。…慣れて感じるのがだ。
女性でも3回目で感じることは少ないだろう?」
曖昧な笑いを浮かべている。
そう言うモノなんだろうか?
オレは慣れている女性しか抱いたことが無かったから解らない。

「そう言うモンか?」
「いや、私にもよく解らないがな。
 これはセンセイと私の躰の相性がいいということではないか?」
嬉しそうに言う。
ま、オレも嬉しいけどさ。
照れるっての。

「そりゃ、よかった。
 慣れてくれればオレも嬉しいよ。
 明日は熱を出さないといいな。」
瞳を逸らしながら言うと
「吐く量も少なくて済んだし。
 もう大丈夫ではないか?」
軽く男は応えたが、翌日また熱を出されオレ達は同じような一日を過ごした。(それでもオレは行く先をメモにするのを忘れなかった。)

翌日に変わったことと言えば、オレを探しに男が外に出なかったことと、書庫にいるというメモを残したオレがトイレに行っている間に男が瞳を覚ましてしまったことだ。
「センセイ!」
切羽詰まった声がトイレにいるオレに聞こえた。

しまった!
それに気付いたオレはトイレのドアを内側から叩きつつ
「おい!ここにいる!」
と叫んだ。

「センセイ?」
「ああ、トイレにいる。」
安心させるように言うと、
「本当に?本当にそこにいるのか?ドアを開けてくれないか?」
と聞いてくる。
いや、ヤだよ。
トイレのドアを開けるのはさ。

「ここにいるって。安心しろ。」
と告げると
「せめてずっと声を聞かせて欲しい。」
泣きそうな声で言われてしまった。
どう…どうしよう?
「い…一番、エドワード・エルリック、歌います!」
仕方がないのでオレはトイレにいる間、歌を歌い続けた。

…その後、オレはトイレにいる間中歌うクセがついてしまい、後日事務所で同様に歌っていたらアルにヘンな顔をされてしまった。

その日は結局、安定剤について話をすることは出来なかった。





Act.21

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