F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.14
「遊」vol.14
08.12.7up
「あんたもう帰れよ。昼休みは終わりだろう?」
ここからセントラル税務署までは歩いて10分ちょっとだ。
あんまり税務署長が不在ではマズいだろう。
只でさえホークアイさんに『無能の金色の恋人』と呼ばわれているのだから、オレ絡みで彼女に迷惑は掛けたくない。
怖いし。

それにしても『金色の恋人』ってナニよ?
『オレなら1枚、銀なら5枚』か!?
おもちゃのカンヅメ当たるのか!?(←古!)
うーむ。恥ずいヤツ。
男の顔をしみじみ眺めてしまう。

「もう帰りまで逢えないのか。」
おい。フツー朝出たら帰るまで逢えないから。
職場が違う限りそれが当たり前だから。
「あとで合計表の提出に行く。
 運が良ければ逢えるかもな。」
ま、税務署長が総務課(一般の納税者とは違い、会計事務所は申告書などを総務課に提出する。)にいることはないけどな。

「提出なら私が持って行こうか?
 手間が省けるだろう?」
「それはダメだ。
 ショチョウが会計事務所の提出分を持って行ったらおかしいだろう?
 第一控えはどうする?
 それもあんたが受け取ってオレに渡すつもりか?
 そういう馴れ合いはダメだ。」
「…そうだな。」

「ああ。あんたは公私混同はしないと言ったな。オレもそうだ。
 これからあんたとやっていくのなら、これははっきりさせておきたい。
 オレ達はお互い、守秘義務を背負っているんだ。
 オレはあんたの仕事の内容は聞かない。踏み込まない。
 だからあんたもそうしてくれ。」
「ああ。私が悪かった。考え無しだったよ。」
「いや、考えてなかったからこそオレのために言ってくれたのは解ってる。
 でも、これはオレ達のルールだ。
 ずっと…ずっと二人がやっていけるように、今決めよう。」
「承知した。」

もう一度抱き寄せられ、耳元で囁かれる。
「嬉しいよ。
 ずっと将来まで私と過ごしてくれるのだね?」
その声に吐息が漏れる。
もう膝から力が抜けてしまっても、オレにはこいつが抱き留めてくれると解っている。
「ああ。だからもう帰れ。オレはホークアイさんに殺されたくない。」


結局オレがアルと入れ替えに合計表の提出に行ったときには男に逢えなかった。(当たり前だ。)
まだ仕事が残っているのでさっさと帰ろうとしたとき、廊下を歩いて来るホークアイさんに逢った。
「あら。こんにちは。エルリック先生。」
「あ、こんにちは。」
「なにか届出書でも取りに?」
こうして穏やかに微笑むホークアイさんは今まで通り全然怖くないのに。
「いえ、合計表の提出に。」
「あら。早いのね。他の会計事務所さんにも見習って欲しいものだわ。」
「いや。その代わり確定申告の提出はいつもギリギリですから。」
「アルフォンス君と二人でやっているんですものね。」
「はぁ。」
おい。アル。なんでお前、名前で呼んで貰えるんだ?

「猫の手よりマシかどうか知らないけど、使えるものならあの無能も使ってやって頂戴。」
うわぁ。オレにまで上司を無能呼ばわりですか。
容赦ないデスね。
「あの…。」
「どうせここにいてもロクに役に立たないんだから、少しでもエドワード君の役に立てば本望でしょう。」
あ、オレのことも名前で呼んでくれた♪
もうホークアイさんがやつをどう呼ぼうがどうでも良くなってしまった。
冷静に考えたら、やつはそうとう酷い言われようだったが。
つか、やっぱホークアイさん、怖いです。

「本当なら逢ってやってと言いたいところだけれど、書類を溜められていてね。
 あなたに逢わせるわけにはいかないのよ。
 申し訳ないのだけれど。」
「いや、帰ればいやでも、本当にイヤでも逢うんですし。
 今逢わなくても全然かまいません!」
本心です。撃たないでクダサイ。
いや、今のアメストリスで銃の保持は禁じられているけれど。
「そう?定時までには仕事を上げると思うの。あなた逢いたさにね。
 必要な届出書があったら、いつでもあの無能に言って頂戴。
 事務所まで届けさせるから。」
アメストリス税務署のボスはホークアイさんだな。
きっとそれに気付いたオレは遅い方なんだろうな。
税務署内では周知の事実に違いない。


ホークアイさんと別れて歩いていると、折れた廊下の先から声が聞こえた。
無能の声だ。(あれ?呼び名が自然に変わってる?)
こっちに歩いてくるようだ。
思わず柱に身を隠してしまう。
もっと仕事中の声を聞いてみたくて。

「それは署内通達で知らされていることだろう!?」
オレがあまり聞かない荒い声。
「しかし、この時期の法人の調査は以前から行われておりますし。」
あれ?聞いたことの無い声だ。異動してきた人なのかな?
「君たちは適正な納税を手助けしたいのかね? 邪魔をしたいのかね?」
「それは…適正な納税をさせるのが税務署の仕事です。」
「『させる』のではないだろう!」

や、『させる』んだろうよ。
オレにはその人の言い分の方が解る気がする。
それが正しいとは思わないけどな。
しかし、ちらっと覗いた男の顔はいつもとは全く違っていた。
引き締まって威圧感さえ感じさせる大人の顔。
こんな顔は見たことが無かった。
仕事中のこいつはこんな顔をしているんだ。
ちょっとカッコイイかも。…いやいや。

「数年前からこの時期の法人調査は控えるよう言われているはずだ。
 この確定申告時期、こちらにどんなメリットが有るというのだね?
 言ってみたまえ!」
うんうん。
無能、ガンバレ。
オレもこの時期に法人(会社のこと。)の調査が入って困ったことが何回かある。
んなヒマねぇっつうの。

「法人課税部門には確定申告は関係有りませんから。
 調査を入れることにとやかく言うことは…。」
その人が言いかけたところに男がかぶせるように言う。
「それを担当しているのは税理士だろう!?
 彼らは確定申告で忙しいのだから、調査に対して芳しくない返事が多かった結果、法人の調査を減らすよう署内通達が来ているのを君は確認していないのかね!?」
「…申し訳ありませんでした。」

男に食い下がっていた人が離れてからだったからヤツには聞こえなかっただろうが、隠れていたオレにはその人が舌打ちをしたのが聞こえた。
無能は本当は敵が多いのではないか?
ふと思った。
オレの担当区域の税務署長をずっと続けていることも本当は不自然だ。
もしかしたらこいつは敵が多いのかも知れない。

そのことは後になって、イヤと言うほど思い知らされるのだが。


午後5時半に無能、いや男は事務所に来た。
公務員は残業が無くていいよな。
ま、確定申告の提出時期になれば個人課税部門はそういう訳にも行かないんだろうけど。
「あ、ロイさん。いらっしゃい。」
「やあ。アルフォンス君。お邪魔するよ。」
「マグ、持ってきたか?」
当然のように迎え入れるのはアルに対して照れ臭くて、ぶっきらぼうに聞いてしまう。
「いや、それは君に一緒に選んで欲しくてね。」
ああもう。
そんな嬉しそうに恥ずかしいことを言うな!
「適当にその辺座ってろ。オレはまだ仕事が終わらないから。
 飲むモンも自分でやれよ。」
「ああ。かまわないでくれたまえ。」
「お菓子もよかったら自由に食べて下さいね。」
「ありがとう。」
テーブルについた男に背を向けてアルとオレはオフコンに向かって入力を続ける。

「あれ?兄さん。このお客さん、861使ってたっけ?」
「ん?いや。869だろ?854も使ってないハズだ。」
オレ達は勘定科目を入力する時に使う科目番号で呼ぶ。
ハチロクイチは「新聞図書費」ハチロクキュウは「雑費」ハチゴウヨンは「荷造運搬費」という具合だ。
日常生活やお客さんへの説明にも、つい科目番号で言ってしまうことがよくある。
高じて自動車のナンバーを見て「852」(消耗品費の科目番号)だったりすると
「うわ。消耗品なんだこの車。10万センズ未満か?」と無意識に考えてしまう。

ふと背後が気になった。
振り向きながら
「それは見るな!」
男に言う。
やっぱり。
男が手にしていたのはオレ達が『開始』と呼んでる、申告書を作った時の資料をまとめたモノだ。
「これかね?いや、表紙に大きく『開始』とあるからなんだろうと思ってな。」
「それは事務所の内部資料だ。他人が見ていいものじゃない。」
「ほう。税務署に見られてはまずいものか?」
にやり。と笑った顔にムカついた。

一息ついて、オレもにっこり笑ってやる。
「お客さんから戴いた資料やワタクシドモの覚え書きなどが綴ってあるモノです。
 顧客の個人情報ですから、お見せするわけには参りません。
 正式な調査、もしくはアナタが査察官と言うことであれば話は別ですが。
 どうなさいますか?
 そのままお読みになると言うことであれば、個人情報保護法に抵触致しますが?」
男は更に笑みを深めて『開始』を棚に戻す。
「仲々言うね。君の調査に私も立ち会ってみたいものだ。」
オレの理詰めで攻める慇懃無礼な態度は実は男のマネだ。
若いとナメられがちなので色々試した結果だった。
「そりゃ遠慮しとく。」

ふむ。と顎に手をやり男が言う。
「ホーエンハイム氏とは随分違うな。」
「あー。あれはオレには無理。」
「うむ。あの説得力は並ではないからな。」
「父さん、すごいよね。
 自分が間違ってるって解ってるくせに、ニコニコと言葉を並べて相手を納得させちゃうもんね。」
アルが入力を続けながら言う。
オレもオフコンに向き直った。

そうなんだ。
親父は絶対間違っていることでも平気で相手に言いくるめるワザを持っている。
オレ達も見ていて『それは違うだろう。』と突っ込みたくなるのだが(いや、お客さんの不利になるので言わないが。)やつは温和な顔と声をしながら見事な論理展開を繰り広げる。
調査官も『どこか違う…よな?』と思いながらも論理に隙がないので、つい頷かされてしまうのだ。
あれは、百年経ってもオレには出来ないマネだと思う。

くすくすと笑いながらアルが言う。
「それにしても、兄さんはやっぱり後ろを向いていてもロイさんのことを意識してるんだね。」
「あ!?ナニ言ってんだ!?」
「だってボクはロイさんが開始みてるのなんて全然解らなかったよ。」
「それだけ愛されているのだから嬉しいよ。」
しれっと言うな!
「あーもう。仕事の邪魔だ。黙ってろ!」


「じゃあ今日はこの辺で切り上げるね。お疲れ様〜。」
アルが区切りのいいところで仕事を終わらせる。
「お疲れ様。気を付けて帰りたまえ。」
「はーい♪ロイさんもお疲れ様でしたぁ。」
「おー。おつかれー。…母さんによろしくな。」
オレがなんでこんなことを言わなくちゃ…。
「君はまだ終わらないのかね?」
「んー。」

7時半か。
まだ年も明けていないし、まだそれほど仕事は立て込んでいない。
「そろそろ帰るか。晩メシの買い物もしなくちゃな。」
「疲れているのなら外食でもかまわないが?」
「いや。まだ全然忙しい方じゃないからな。大丈夫だ。」
こんな程度でいちいち外食なんてしてらんない。
だから不健康だっつんだよ!
「この辺の小さい店じゃ包丁はないから、またショッピングセンター行くか。」
「…車で迎えにくればよかったな。」
「いや、駐車場にアルの車が駐めてあったから無理だろ。
 『路駐でゼイムショチョウ捕まる!』なんて恥ずかしいぜ。
 それはそれで、オレは楽しいけどな。」
「それもそうか。」
「あんたんちまで、歩いたってすぐなんだし。」


ショッピングセンターで包丁とまな板、その他昨日買い足りなかったものを買う。
「あんたのマグ、どれにする?」
食器売り場で男に聞いた。
こいつのことだからと、高価なカップが並んでいる専門店だ。
「君が選んで…いや、君と揃いのものがいいのだが、ここにあるのか?」
「え?オレと揃いでいいのか?」
「うん。それがいい。」
「なら百センズショップ行こう。あそこで買ったんだ。オレのもアルのも。」
「百センズショップ…。」
こいつ行ったことないんだろうな。

思った通り男は百センズショップに来たことがなかった。
「こんなものまで売っているのか。」
感心したように色々見て回っている。
「ほら。マグはここだ。まだ同じモノが売っていてよかった。
 どの色にする?」
「?すぐ売らなくなるものなのか?」
「うん。商品の回転が結構早くてな。同じモノがずっとあるとは限らないんだ。」
「そういうものなのか。色は…なにがいい?」
「いちいちオレに聞くな!」
「君の好きな色にしたいじゃないか。」
「マグの色なんざどうでもいい。
 …。ん…と黒なんかあんたに似合うんじゃないか?」
「君がそう言ってくれるなら黒にする。」
あー、オレ達今バカップルってヤツだな。
嬉しそうにマグを選ぶスーツ男二人。
やっぱ人生誤ったかな?

「しかしこれが百センズか。」
しみじみと店を見渡して男が言う。
ま、言いたいことはわかる。
「景気回復の足枷になると思ってるんだろ?」
「そうだな。」
「結構手作りのものがあるからな。
 おそらく原価を考えると海外で作っているか、下請けは10個や100個作って1センズって単位だろうな。
 内職のレベルだ。」
「海外で作れば金はそちらへ流れて終わりだ。
 国内でもそれだけ作る者への賃金が安ければ経済は動かなくなる。
 センセイにも解っているだろう?」
「ああ。それでも消費者は安い方に流れる。
 悪循環で不景気は続く。ってね。」
「高いものを買えと言ってもムダだろうしな。」
「いくら金利を安くしても将来への不安がこれだけあると人間は消費を抑える。
 自然な考えだろ?」
金が動かなければ景気は回復しない。
こういう安い店や価格破壊は一見消費者の味方のようでいて、実際は不景気を産むんだ。

「それでも政府はデカい企業が残れば、中小企業や個人商店なんてつぶれればいいと思ってるんだろ?
 そういう政策しか採られていない。」
「…センセイ。」
「税法ですら、老人や低所得者から金を取ることしか考えていないじゃないか。
 老年者控除の廃止や、相続時精算課税ってなんだよ!
 老人の必死に貯めた金を、バカ息子どもがさっさ取り上げて使えって言ってんだろ!?」
「センセイ。君がお年寄りを大切にする気持ちは解るが、私が税法を作っているわけではないよ。」
背中を軽く叩かれて気が付く。

「…ごめん。そうだよな。」
「まあ国税徴収法を作ったのは私の祖父なんだがね。」
「え!? プロフェッサー・カサルって、あんたのジイさん!?」
「おやよく知っているね。母方の祖父なんだ。」
「オレ、講義受けたことがある。
 国徴(国税徴収法の略)受験する気なかったから1回だけだけど。」
「そうだったのか。言ってたろう?
 『この法律は私が作ったんです。』と。」
「うん。アメストリス大戦後の税法大改正で活躍したって。
 『だからどんな解釈が出ようが、私の解釈が最も正しいんです。』だよな。
 数年前に亡くなったって聞いた。
 あー。ゴシュウショウサマデス。」
「これはご丁寧にどうも。
 いや、老衰だったし、ロクに逢ったことはないんだ。
 あまり交流がなくてね。」
「それでも似たような仕事に就いたんだ。」
「まぁ、なんとなくな。」
「ふうん。」
「ところで今日の夕食はなにかな?」
「ああ。シチューにしようかと思ってる。肉多めな。」
「それは楽しみだ。早く帰ろう。」

そしてまな板を使った切り方を教えたのだが、やはり男は手を切ったのだった。



Vol.15

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