F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【基本のエドロイSS】 >
(「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
「虚」の続きになります。


  「慈」


ロイ・マスタングという男は、彼が快楽を求めて女を抱く頻度と異なり『異性間の性行為=生殖行為』と捉える男であった。
しかし(ある意味、それ故にとも言えるが)彼は自身が粘液を分泌する前から避妊具を付け、女性の胎内に精を残すことはしなかった。
自分の子孫など残そうと希望することもなく、どちらかと言えばそれを嫌悪する傾向にあったからである。

むしろその観点で言えば、彼の志向には同性同士の性行為が適していたのかも知れない。
しかし(鋼の錬金術師ほどではないが)年若くして国家錬金術師となった彼に、性行為を強要できる男はいなかった。
イシュヴァール内乱では極端に女性兵士の足りない状況で、見目麗しい青年兵士は同性の慰み者になることも多かったが、彼自身の持つ能力とヒューズの尽力により彼がその対象とされることがなかったのだ。

それ故、彼は自分の躰に同性を受け容れるという経験のないままに年月を重ね、少年により初めて躰を開いたのだった。
それは今まで彼の知ることのなかった愛情に基づく行為であり、苦痛を伴うとはいえ彼自身をいたく満足させるものであった。
しかし同時に初めて自分の存在に関して自信を持てなくなるという事態を引き起こすこととなり、それは慣れ無さ故に彼にとってかなりの精神的負担となっていた。


   ****************************


「あんたって、どうしていつもそうなんだ?」
ようやく息が収まって来た頃に少年が言った。
休日をゆっくり少年と過ごし、戯れるように抱き合った後のことだった。
その呆れたような声色とは異なり、私の髪を撫でる少年の表情には優しさしかなく。
「?」
理解できない私に溜め息をついた。
何か少年の気に沿わないことが有ったのだろうか。
不安な顔になってしまったのだろう。
「そんな顔すんな。
 オレはあんたに満足してるぜ。
 もう少しあんたも我が侭になれよ。
 オレにして欲しいこと、少しは言えってこと。」
安心させるように微笑んで少年が言う。

少年にして欲しいこと。
それは私を愛して欲しいと言うこと。
私を捨てないで欲しいと言うこと。
「私は…君の好きなようにして欲しい。」
それしか私には無いから。
「あー、もう。
 それってすんげぇ嬉しいし、めちゃめちゃそそられるけどさ!
 って、そうじゃなくて!」
あーもう。と繰り返し、頭をガシガシと掻いている。
今日の少年はどうしたというのだろう?
今までこんなことを言われたことはなかった。
なにか彼の気に入らないことをしてしまったのだろうか。
「なにか…不満が?」
恐る恐る聞いた私に苦笑した少年が
「オレはあんたに不満なんかないって。
 や、もちょっと我が侭を言って欲しいっていう不満はあるけどな?」
腕を廻して優しく抱きしめてくれる。
ああ、少年に抱きしめられるのが好きだ。
一番落ち着ける、安心できるこの空間。
幸福な場所。

「あのさ、オレはあんたと、こ…恋人…同士だろ?」
若干の照れがあるのだろう。
上気した顔で少年が言う。
「オレはあんたと対等じゃないさ。」
対等ではないとも。
私は君には相応しくない。
「オレはあんたを護りたいと思ってるけど、結局護られてるだけだ。
 あんたは大人で、オレの後見人で、軍でも大佐って地位にいて。」
「…。」
「でさ、オレはまだガキで、禁忌を犯したせいで片手片足の役に立たない、あんたに釣り合わないホントの子供だ。」
「それは違う!君は…。」
言いかけた私を制して君が言葉を続ける。
「でもな?オレはあんたが好きだ。
 年が離れてて同性で。
 そんでも好きになった人間があんただったんだ。
 あんたもそう思ってくれてんだろ?
 ならオレにばっか合わせてないで、もっと要求しろよ。」
ああ、こんな時でも君の瞳の生命力は強いのだな。
そんな場にそぐわない感想を抱いた。

私はその瞳に恋い焦がれているだけの愚かな男だ。
いつ、君に捨てられるのかと怯えている。
「私は…今以上、君に望むことはない。
 できればもっと君が私に要求をしてくれると嬉しいが。」
そうすればもっと君の望むように出来るから。
そう思って正直に告げたのだが、これは少年にとっての正解ではなかったようだ。
「オレがして欲しいことじゃなくて、あんたがして欲しいことをもっとオレに言えって言ってんの!」
怒っているのだろうか。
どうしよう?

「私が…して欲しいことを言えばいいのか?」
問うた私に勢い良く少年が応える。
「そ!そうだよ!
 あんた、オレが何言っても黙って言う通りにして。
 ホントはイヤだって思ってもそれを言わないで。
 そんなん大佐らしくないぜ?
 イヤならイヤってちゃんと言えよ。
 もっとオレに要求をしろよ!」
少年に要求…。
有る。
有るには有る。
しかし、それで呆れられて捨てられたらどうしようとしか私には浮かばない。

「…呆れられたら厭だから言えない。」
ぽそり、言うと肩を掴まれぐらぐらと頭を揺すぶられた。
おい。脳貧血を起こすからやめたまえよ。
激しい運動の後に頭を振るのは良くないと君は知らないのかね。
「呆れねぇって!言ってみろよ!」
言う前から呆れるかどうかが解るものか?
それは科学者たる錬金術師らしくない発言だぞ?
「もし呆れたら、要求を無かったことにしてくれるか?」
少年は少し考えているようだ。
「あの…さ。ものすごく変態的な要求だったりしたら、無しにするかもな。オレ。」
正直な返事が好ましい。
「ああ。そうなら無しにして貰えると私も助かる。
 私の要求は…。」
「うん?」
「君が…私を捨てないことだよ。」

しばらく無言の時間が続いた。
…どうしよう。
やはり私には過ぎた願いだったのだろうか。
同性で、こんな14歳も年上の男が願ってはいけないことだったのだろう。
やはりなかったことに…と言おうとした時、いきなり頬に張り手を喰らった。
「な…!鋼の!?」
痛い。
呆れたにしても酷い仕打ちではないか?
そんなに怒らせてしまったのだろうか。
傷ができたようで口の中に鉄臭い味がじわじわと広がった。
「あ…!悪い!痛かったか!?」
痛いよ。鋼の。
君は自分の機械鎧の攻撃力をなんだと思っているのだね?

無言で睨み上げると面白いように取り乱す。
「ごめ…!ごめんな!
 あんま、くだんないことをあんたが言うからさ!
 ああ!血ぃ出てんな。冷やさないと!」
呆れているわけでも、怒っているわけでもなさそうだ。
わたわたと暴れ出す躰を抱き留めてベッドに組み敷き
「それで?君は私の願いを叶えてくれるのかね?」
内心の怯えを押し隠して問うてみる。
傷のせいで少し滑舌が悪くなってしまったが、意味は充分通じたろう。
「あ?ナニ当たり前のこと言って!?
 オレがあんたを捨てるわけないだろ?
 どうしてそんなコト考えるんだ?」
「君が愛おしいから。」
それだけでは勿論ないが。

「あー。あんたさぁ。元々発想が暗いんだから、なんか悩んだらオレに言えって言ってるだろ?
 まぁた、つまんねぇこと考えてんな?」
(私は『爽やか』だと自認しているのだが)少年が『胡散臭い』と評する笑顔の私に、呆れたような声が掛けられる。
つまらないことだろうか。
私が女性の躰を持っていないことで、少年にいらぬ気遣いと忍耐力を強いることが?
「ナニ考えてんだか、言えよ。」
私に押さえ込まれながらもその瞳の力は強い。
射抜かれそうなほどに。
「何も。」
「嘘付け。」
「何も考えてはいないよ?
 ただ君に愛されていたいだけだ。」
それはそれは大それた願い。
私にとって。

「…オレはあんたに愛されてるってことに、いつも自信を持てない。」
溜め息を一つ付いた後に、意外なことを少年は口にする。
「私に愛されていることを?どうして?」
「意外だろ?」
さらりと問われた言葉に
「ああ。」
素直に応える。
「あんたはどうだ?」
「…私も同様だ。
 君に愛されていることに自信が持てていない。
 私は…男だから。」
「な?でもあんたはオレを愛してるだろ?」
「ああ。勿論。君だけを私は愛している。」
「オレも同じだって。あんただけを…好きだ。
 同性で、あんたを受け容れて感じさせる躰がオレに無くてもな。
 そろそろ解れよ。
 オレはあんたしか好きじゃないし、あんたに満足してるってさ。」
少年の言葉は嬉しいが、それを受け容れて自得することは出来ない。

「しかし君は女性の躰を知らないではないか。
 私より自然に君を受け容れられる躰を。」
ああ、最後の言ってはいけないことを言ってしまった。
どうして少年の瞳は私の全てを曝け出してしまうのだろうか。
そんな私に、ふと少年が笑った。
「あんたは大人で、今までの常識とかしがらみがあるかも知んない。
 でもオレは子供だからさ。自分の価値観しかねぇとこがあんだ。
 オレは、あんたっていう人間が好きだ。
 んで、あんたがたまたま男だったってだけなんだよ。
 オレにとってはさ。」
その笑顔は全てを受け容れるように優しかった。
「同性…だ。こんな年上で…。
 君に、暖かい家庭も子供も与えることが出来ないのだぞ?」
ああ、もう。
どうして今まで秘めていたことをこんなところで暴露しなくてはならないんだ?
「それでも。オレはあんたを選んだし、あんたもオレを選んでくれたろ?
 それだけじゃ不満か?」
不満があるとすれば私ではなく、君の方だろう?
「不満などない。私は君を愛している。」
「ならさ。もう少しオレを信じてくんねぇか?
 オレはあんたしか好きじゃないし、あんたに満足してるってさ。」
先程告げられた言葉をもう一度繰り返される。

「私は…君に…君の血を継いだ子供を与えることも出来ない。」
視線を逸らして告げた言葉に
「オレだってそれは同じだろ?
 あんたの子供を作るコトが出来ないってのはさ。
 なあ。オレはアルとオレの躰を取り戻したら、ずっとあんたと一緒にいるって言ったろ?
 その後で子供が欲しくなったら養子でももらえばいい。
 …あんた、そんなに子供が欲しいのか?」
違う。
「私が子供を欲しい訳ではない。
 自分の血を継いだ子供など…欲しくはない。
 ただ…私では君の子を成すことは出来ないと…」
私の言葉にまた溜め息が聞こえる。
しかしそれは苦いものとは聞こえなかった。
「オレはあんたが好きなの。
 子供が欲しいなんて、オレ自身がガキだからまだ考えたこともないけどさ。
 それでも『子供が欲しいからあんたと別れる』なんてことは絶対選ばないって自信があるぜ?」
生身の指が優しく髪を撫でてそのまま頬に滑らされる。

「オレはあんたが好きなんだ。
 どうして頭のいいあんたがそんなことだけは解んないのかな。」
解っているとも。
私が君に相応しくないと言うことなら。
「で、ナニをぐちゃぐちゃ考えてんだ?」
「は?」
「だからさー。まだなんかつまんないこと考えてんだろ?
 あんた余計なコト、考え過ぎなんだよ。」
「…。」
両腕が私に廻され引き寄せられる。
少年に加重を掛けないように彼の隣に横たわるとそのまま抱きしめられた。
私の頭を胸元にそっと抱いて髪を、背中を撫でてくれるその腕は優しい。
少年そのもののように優しい。

「まさかさ、自分がオレに相応しくないとか考えてんのか?」
「…。」
「え?アタリ?マジで!?」
「…。」
盛大な溜め息が聞こえた。
「あんたってばいっつも不遜なくらい自信家で尊大なクセに。
 なんでオレのことになるとそんなに自信がないの?」
どうして自信が持てよう?
こんな穢れた自分が君に相応しいなどと自惚れられよう?
「さっきも言ったけどさ、オレはガキで男で五体満足でもない咎人だ。
 そんであんたは大人で国軍大佐でオレの後見人だ。
 どっちがどっちに相応しくないんだ?
 まあ、そんでもオレはあんたが好きだから『相応しくない』なんて理由であんたから身を引こうなんて思わないけどな。」
その潔さが羨ましい。
「君は…」
潔く、眩しいほど強い。
強くて優しい。
私が勇気のないまま為せなかった人体錬成を行いて尚、生命を取り留めた才能を持っている。
君は…人を殺してはいない。
これから妻となる女性と君の子供と暖かい家庭を築いていく、そんな幸福に相応しい人間だ。
ほら。相応しくないのは私の方ではないか。

くしゃ、と髪が混ぜられた。
「さて、エドワード君はロイ君が大好きです。」
いきなり何を言い出すのだろう?
「ロイ君もエドワード君が好きですね?」
促すように私の顔を覗き込まれ、思わず頷いてしまう。
「エドワード君とロイ君では、子供を作ることはできません。
 でも、エドワード君もロイ君も別に自分たちの子供を欲しいと思っているわけではありません。
 ここになんの問題もありませんね?」
「それでも君には…」
「エドワード君は子供が欲しいなんて思ってません。
 なにか問題が?」
私の言葉を遮って、ゆっくりと力強い口調で繰り返される。
「将来には欲しくなるかも知れないじゃないか。」
それでも反論した私にまた言葉を続ける。
「ロイ君はいつか子供が欲しくなるかも知れません。」
「私はならない!君しかいらない!」
思わず顔を上げた私に少年がにっこりと笑った。
「そう。エドワード君もそう思っているんです。
 ロイ君しかいらない。子供なんて別に欲しくない。
 もし子供がいないと寂しいなぁと思うときが来たら、親に捨てられた子供でも養子にすればいいじゃないか。
 2人でその子をかわいがって育てればいいじゃないかと。」
「…。」
「男女の夫婦でも子供がいないことはめずらしくありません。
 だからエドワード君とロイ君に子供が出来なくても、なんの問題もないんです。」

「…。」
「一番大切なのはなんだと思いますか?」
子供に諭すような優しい口調で問いかけてくる。
「一番大切なこと?」
「そう。エドワード君とロイ君にとって一番大切なこと。」
「…私にとっては…君だ。君の…幸福だ。」
「残念!半分だけあたりだ。」
ようやくいつもの口調に戻ったな。
「…半分…は?」

見上げたままの私の髪をまた優しく混ぜながら答えをくれる。
「オレ達にとって一番大切なのはさ、2人で幸福になることだろ?
 特にあんたはオレ達がお互いを好きなんだって自覚することだ。
 あんただけがオレを好きな訳じゃない。
 あんたがオレを大切に想ってくれてるように、オレだってあんたを大切に想ってる。
 先ずはそれを知って、信じることだ。」
解るな?と囁いた言葉は今までと同じなのに、静かに精神に染み込んでいった。
「ん…。」
ひたり、と少年の胸にまた額を付けて顔を埋める。
それはそれは幸福で。
でも胸に満ちた暖かい想いのままに紅く染まった顔を見られたくなくて。
「だからもう余計なことは考えんな。
 オレにもあんたにもやらなきゃならないことがあんだから。
 2人でいる時くらいはお互いのことだけ考えようぜ?」
髪を撫でていた指がゆるりと背中に落ちてくる。
その指先が辿ったところから熱があがるようで、洩れた息が震えてしまった。
「もっとあんたをオレでいっぱいにするよ?
 ほら、キスしようぜ。」
もう片方の手が頬に触れて上向かされた。
そして与えられる熱に私の拘りごと飲み込まれていく。


なあ。鋼の?
どうして君は私をこんなに幸福にさせるのだろう。
だからこそまた私はこの幸福を、君を失うの怖さに不安になるのだけれど。
それでもこの連鎖に溺れることをやめられなくなる。
そしてまた思ってしまうのだ。
こんな自分は君には相応しくないと。
それでもそれを否定し続けてくれる君に、また溺れていく。
なんて甘い連鎖。
自分にそれが赦されるのかとまた不安になる、甘い連鎖。

救いようのない無限ループを脳内に構成してしまうのが私の常だ。
しかし彼はこのループにこともなく割り込んでくるのだ。
それは私にとって幸福でしかなく。
そしてまた更に彼に溺れていくのだ。

鋼の。
君は解っているのか?
こんなに君に溺れる醜い男を、君自身がのさばらせていると言うこと。
益々私が君に溺れて、どうしようもない人間に成り下がっていると言うことを。

君しかいらない。
私には君しかない。
そんな重い荷物を背負うよりも大切なことが君にはあるのだろう?
君と弟の躰を取り戻すと言うことが。
そんな君に負わせることの叶わぬ私の醜い願い。

いつか。
君が
躰を取り戻したら
その時こそ
君に願おう

私だけを
愛して
くれることを

いつか
「いつか」
そんな言葉に縋ってしまうんだ。
私は。
いつか
君を
呼びたい。
君が
君のご両親に与えられた名前で
その
掛け替えのない名前で
「エドワード」

そう
呼べる日を
願う私は
きっと
もう
どうしようもなく
君に…
君に…。

愛している
エドワード
君を。
君だけを。
掛け替えもなく。


         fine



070204



以前からupしては削除し、しばらくすると(酔いたまさんが)またupを繰り返す、納得のいかない駄文です。
それでも捨てる気にはなれない貧乏性な私…。


clear
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