F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.21
「遊」vol.21
08.12.12up
脱衣所で慌ただしく服を脱いで洗濯機に放り込む。
寝室へと走り、着替えをそろえてようやく落ち着いた。
裸はダメ、着ててもダメって…。
大体いい年して、なんであの男はすぐサカるかなー?
裸のままでは逢いたくないので、男がリビングへと移動する音を確認してから風呂に入る。

ファンは回しているが、まだ浴室には男のシャンプーの香りが残っている。
いつも風呂に入ってるとき嗅いでるはずなのに、今日は妙に気になってしまう。
それは夜に嗅ぐ香り。
オレに触れながら、昂ぶって体温の上がった男から香る…。
「っ!」
男に躰を触れられて舌を匍わされる感覚と夜の空気を思い出してしまった。
まるで幻覚のようにリアルに再現され、包まれていく錯覚。
くらくらする。

嗅覚。
それは一番本能に近いのだと聞いたことがある。
東から伝わってきた『ブッキョー』という宗教の僧は、瞑想に入るときに香を必ず焚くらしい。
それは、瞑想というトランス状態やトリップ状態から帰れなくなったときに、その香の香りを辿って現実世界に帰るための道しるべになるんだそうだ。
また、記憶の再構築からなる夢で、味や痛みが存在しても匂いだけはないらしい。
それは記憶よりも本能に蓄積されているため、夢で再現できないと。

などと冷静に考えてみてもダメだった。
うー。
マズい。
のぼせとは違う熱さ。
吐く息も熱い。
このままじゃマズいよな。
うわ。消えろ!
頭の中の男!

このままじゃリビングに行けない。
こんな顔してったら、速攻喰われる。
しかたない。一発ヌくか。
オレは下肢に手を匍わせる。

…待て。
バスタブの中じゃマズい。
風呂掃除はあいつの担当だ。
オレはバスタブから上がり、洗い場の椅子に座る。
なんか自分ですんの久しぶりだな。
元々オレは淡泊な方だ。
しかしオンナノコとヤっていたから久々ってんならめでたいけどな。
思わず溜め息が出る。
「ん…。」

さっさとヌいちまおう。
最後に付き合っていた彼女を思い浮かべる。
結構胸が有ったよな。
色が白くてあの肌が好きだった。
オレを見つめる黒い瞳と。
「ふ…っ」
抱いていると汗に濡れた黒髪が額に張り付くのが色っぽかったな。
「ぅ…ん…」

濡れた黒髪…。
おい。いつの間にオレの想像の中にいるんだ。あんた。
そんでもって、男に舌を匍わされている想像にすり替わってんのに、なんでオレ萎えないんだ?
オレ、真性の変態?
もういい。
さっさと済ませよう。
さくさく手を動かし始めた。

「センセイ?」
いきなり声を掛けられる。
「をわ!?」
いつの間に浴室のドアが開いて男がそこにいた。
「なっなんで!?」
思わず自分のモノから手を離す。
「いや、礼に私も頭を洗おうかと来たら具合の悪そうな声がしたので覗いたんだが。」
覗くなーー!!
「や。大丈夫。頭も自分で洗うから…!」
だから消えてくれ!
脱ぐなー!
入ってくるなーー!!

「いけないな。センセイ。私がいるのに独りで済ませるなんて。」
やっぱり誤魔化せないよな。
「いや、ほら。お手を煩わせずに…。」
苦しい。
オレ自身にも苦しいと解るぜ。
「寂しいことを言う。」
「や、いいから。出ていって…」
「さあ。髪を洗おうか。」
へ?洗髪?

「センセイ。縁に頭を乗せてくれたまえ。」
「あ…ハイ。」
バスタブに浸かり、縁に首をかける。
「タオルを顔に乗せるか?」
「あ、お願いシマス。」
バレてない?
ハズはないけど。

まあ、これで誤魔化されてくれれば万々歳か。
そっと顔にタオルが乗せられる。
「濡らすぞ。」
「ん。」
ざ、とシャワーの音が聞こえる。
男の太いのにしなやかな指が髪の間に入って心地よく掻き分けていく。
気持ちいい。

丁寧に洗った後でオレのシャンプーを付けて頭全体をマッサージするように指が動く。
「すげえ気持ちいい。」
「センセイはどうされるのが好きかね?」
「んー。体育会系にガシガシとされんのが好きだな。」
「ほう。こんなに繊細で綺麗な髪なのに意外だな。」
言葉とは裏腹に納得しているような、まるで確認をしただけのような声が返ってくる。
頭皮をオレの好みに強めに洗った後、髪の先の方へと泡が立てられていく。
髪の先の方までゆるゆると洗っていく仕種で気付いた。

  これは女の長い髪を洗い慣れている手つきだ。

なんか面白くなかった。
別にこいつはいい年した男なんだし、女性と付き合ったことも沢山有っただろう。
オレ以外にはノーマルだったと自分で言ってるんだし。
オレだって今まで何人かの女性と付き合ってきたんだから、文句を言う筋合いなんて無い。
それは解ってる。
解ってるけど、面白くないのは事実だった。
髪を洗わせるほどこいつに甘えて、任せられると信用した女性がいたことに。

いつの間に泡を洗い流されていた。
リンスを地肌から髪の先までゆるやかに延ばされ、指が馴染ませていく。
決して痛いと感じさせない馴染ませ方。
やがて一房の髪が指で挟まれ、指で擦られるかすかな感触が地肌に伝わる。
くすぐったいような焦れるような感覚。
髪を弄ぶ手と別の手が、こめかみを撫でたかと思うと耳へ、耳たぶを伝って首筋からうなじへと滑る。
「っ! そこに髪はねぇだろ!?」
息を詰めてしまったのを誤魔化したくて強く言う。
「リンスが流れてしまってね。」
しれっと言うが、ウソだ。絶対ウソだ。

その間にも指が耳の後ろや鎖骨まで匍わされる。
「ざけんじゃ…」
「リンスが足りないかな。」
人の話を聞けよ!
「なあ。センセイ。リンスのこの感触。」
といって、男はオレの前髪の生え際にリンスを垂らす。
「似ていると思わないかね。」
とろり、と垂れるその感触に痺れが走った。
「ほら。音も。」
指にリンスを付けて動かしているのだろう。
くちゅくちゅとした音が耳元で聞こえる。
視覚が閉ざされている分、触覚と聴覚が研ぎ澄まされている。

「な…。」
オレの脳裏にあの薄桃色の液体が垂れる様子が浮かぶ。
オレと男の触れ合ったモノに垂らされたぬらりとした液体。
知らず躰が捩れてしまった。
「どうした?センセイ?」
「…。」
こいつ…。
くすりと男が笑った声が聞こえた。
「センセイは、これが何に似ていると思ったのだね?」
「…。」
「なあ。このとろりとした液体が。」

答えたくない。
でもここで黙っていると、またお仕置きだの言われかねない。
オレは男の望む答を口にした。
「…つざい…。」
「聞こえないよ?センセイ。」
どうしてオレ、こいつと暮らそうなんて思ったんだろう。
「…潤滑剤。」
男に触れられている感覚にまた包まれる。
明るい浴室のハズなのに、オレの廻りは何故か暗い空間だ。

「ほう。センセイはそう思ったのか。」
え!?
違うの!?
オレ、恥ずかしいこと言った!?
つか、騙された!?
うわ。恥ずかしい!
真っ紅に染まっているだろうオレの耳に男が囁く。
「私は君の精液を思い出していたよ。」
「っ!」
躰がびくっと揺れ、湯が撥ねる音が聞こえた。

だめだ!
今すぐここを離れないと。
そう解っているのに、動けない。
「…かゆくなるから、リンス落としてくれ。」
精一杯平静な声で伝える。
震えていたけど。
とりあえずここから逃げられるように。

シャワーの音が聞こえ、生え際からあてられていく。
ただのシャワーだ。
ただの湯なんだ。
いいきかせないと、シャワーの湯すらさっきまでと違う感覚で。
すべてが男の愛撫に感じてしまって。
「は…。」
タオルで解らないだろう。
少し荒れてしまった息を吐く。
髪を洗い流した後も、指が耳や首筋に触れてリンスを落としていく。
その度に小さく躰が痙攣を起こす。
バレてる。
それは解ってる。
でもどうしようもない。

「終わりだ。」
その声を聞いて躰を起こす。
そのまま逃げようとして、まだ男が髪を一房握っていることに気付いた。
起こし掛けた躰を引っ張るように髪が引かれる。
決して強い力ではなく。
それでも逆らえない。
今度はうなじに手が回され引き寄せられる。
深く貪るようなキスをされた。

唇が離れたときにはオレはすっかり息が挙がっていた。
肩で息をするオレに
「のぼせたかね?バスタブから上がった方が良い。」
解ってるクセに男が言う。
腕を引かれてバスタブの縁に座る。
息を整えるのに気を取られていた間に男にオレのモノを握られた。

「なっ!」
「さっきも言っただろう?私がいるのに独りで済ませるなんて、いけないよ?」
やっぱバレてんじゃん!
いや、解ってたけどさ。
「や!こんなとこじゃなんだし!いいって。」
「妻を悦ばせるのは夫の役目だろう?」
誰が妻だ?
誰が夫だ!?
舌を匍わすな!
咥えるなーー!!
「んっ…!」
も、逆らえるわけ無いんだよな。
わかってるけど。

「は…ぁ…」
痺れるような快感に背を反らしながらも頭は違うことを考える。
こいつに髪を洗わせた女性を、やはりこいつはこうして愛したのだろうか?
こんな風に感じさせて。
でもその人は、こいつを満足させられたんだ。
当たり前にこいつを受け容れたんだろうから。
オレみたいに怖がることも拒否することもなく。
オレじゃ、その人みたいにこいつを満足させられない。
それが悔しい。
オレだってこいつが好きで、受け容れたいと思ってるのに。

「ぁ…っ!イ…くっ!」
荒い息をついて男を見ると、いつものように飲み込もうとしている。
「やめろよ!浴室なんだから流せばいいだろ!?」
しばらく咳き込むくせに。
それを聞かず、こくり、と飲み下して男が咳をする。
「ほら。飲みにくいんだったら吐き出せばいいんだよ。」
「飲みにくくはないよ。センセイのものだ。」
「そんなに咳をするクセに。」
「口にも喉にもセンセイの存在を感じるのは嬉しいよ?」
だぁぁあ!
「よくそんな恥ずい台詞が吐けるな。」
「君を愛しているから言えるのだよ。」
オレは恥ずかしくて顔を逸らす。

「あの…さ…。」
「ん?」
仲々次の一言が言えない。
言い淀んでいると
「躰が冷えた。浸かろう。」
男がバスタブに身を沈ませる。
まだオレの躰は熱いままだ。
でも
「おいで。」
男に言われるまま、後ろから抱かれる形で湯に浸かる。

「何を考えていた?」
オレの肩と腹に腕を廻した男が耳元で囁く。
「なに?」
「イく前に。他のことを考えていただろう?」
なんで解るんだ?
「私が触れているのに、誰のことを考えていたんだね?」
声が低くなり、その温度も低くなっていた。
抱きしめる腕に力が込められる。

「違! …あんたのこと、考えてた。」
「私の?」
「ん。あんたのこと。」
あんたが今まで抱いた女のこと。
あんたを苦もなく受け容れて満足させた女性達のこと。
「本当に?」
「本当だ。」
ふ、と男が息を吐き、腕からも力が抜けるのが解った。

「なあ。センセイ。」
「ん?」
「こうしていれば君の顔は見えない。
 …さっき何を言い掛けたんだね?」
どうしてこいつはこんなにオレのことが解るんだろう?
オレはこいつの考えていることなんて解らないのに。

顔を見たら言えない。
でも、どうしても伝えたい。
それが醜い嫉妬心に背を押されているとしても。
「あのさ…。」
でも次の言葉が出てこない。
勇気が足りない。
「ん?…焦らなくて良い。待っているから。」
男の手がオレの頭を撫でる。
耳に掛かる髪を後ろに撫で付け、あらわになった耳にキスをする。
「あ…。」
ふる、と躰が震えた。
「何を言っても怒らないから。」

言葉の通り、後はなにも言わず、オレの言葉を待ってくれる。
いつまでも待たせたくない。
言葉も。躰も。
「オレのっ…オレの躰を慣らすことって出来るのかな?」
一瞬男の躰が固まったのが解った。

「…センセイ?」
「この前はいきなりだったからつらかったのかな、とか怖がってたから余計に痛かったのかなとか考えてさ。
 オレ、いつかあんたに抱かれたいって思ってる。
 だから、それに躰を慣らしていくことって出来ないのかなって思ったんだ。」
一度溢れた言葉は止まらない。
「男はいつもつらいけど、感じるようになれば結構いいって言ってただろ?」

きゅ、と抱きしめられた。
「センセイ、無理をすることはないんだ。」
「無理じゃねぇよ。
 昨日だってあんたのに触れでも平気だったじゃないか。
 オレ、きっと大丈夫だと思う。
 それとも、躰を慣らすことって出来ないのか?ダメなのか?」

男の躰が震えたように感じたのは気のせいか?
「センセイ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫…だと思う。方法があるのか?」
「…受け容れるところを慣らしていくしかないが。」
慣れるモンなら御の字だぜ。
「それ採用!いこうぜ!」
「君、そんな短絡的な。」
男が何を躊躇しているのかが解らない。
「あんたは反対なのか?」

しばらく考えて男が言う。
「反対ではないが、怖いんだ。」
「あ?なにが?」
オレの耳たぶにキスを落として男が
「それでも怖いと、どうしてもイヤだと君が思うことが。」
痛みにでも耐えているような声で言う。
んー。その可能性はあるよな。
でも、このまま我慢させることの方がオレはイヤだ。

「あのさ、もしここで怖いとか思ったとしても、オレがあんたに抱かれたいって思ってることは変わんないぜ?
 うん。正直に言えば抱かれたいって思ってる訳じゃない。
 あんたに我慢させたくないんだ。
 あんたに満足して貰いたい。」
きっとこの気持ちが有れば大丈夫だとオレは思う。
「それはまた今度にしないか?」
こいつはオレを抱きたいんじゃないのか?

「なあ。ダメなら別の機会に考えよう?
 とにかく出来るモノならオレ、試してみたい。」
オレの勢いに負けたように、男がバスタブから立ち上がる。
「? どうした?」
「…では寝室へ行こう。」
昨日のことで付いた自信と、半分以上は男に抱かれてきた女性達に対する嫉妬心でオレはやる気満々だった。
そういう方向性は自分でもどうかとは思ったけど。
だから自分がどれだけ怖かったのかを忘れていたのかも知れない。


「いいか。少しでもイヤだと思ったらすぐに言うんだ。いいね?」
ベッドの上で、くどいほど何度も男は言う。
「わかったって。さ、やろうぜ。」
慣らすだけではなくて、出来ることならこのまま男を受け容れられたらいいな、と軽く考えていた。
あれからどれだけ男が優しく触れていてくれたかも忘れて。

優しいキスを受けて、男の指と舌がオレの躰に触れて。
オレは感じながら男のモノに手で触れて。
幸せな心持ちだった。
やがて男の舌がオレのモノを舐めて、同時に奥に指を感じて。
咥えられながら、あの液体を塗した指がオレの中に入った途端、躰が硬直した。

なんだ、これ!?
「は…」
息が上手く出来ない。
強張ったオレの躰と肺が連動することを拒否していて。
…苦しい!
「ぐ…。」
かは…、と喉が鳴ったのが聞こえた。
息が吸えない。
吐けない。

「センセイ!」
叫ぶ声が聞こえた。
ごめんな。
思うと同時に息の出来ない苦しさと、その先に有るモノに心底恐怖した。
オレ…。
躰が痙攣を起こしたまでは覚えている。


気が付いた時には息が出来ていた。
生きてる。
それが最初に思ったことだった。
大げさな。と自分でも次の瞬間に思ったけど。
本当に怖かったんだ。
行為が、ではなく息が吸えないそのままの状態が続くことが。

開いた目が傍らに座っていた男を捉える。
オレをじっと見つめて哀しそうな男を。
「ごめんな。」
一番言いたかったことを告げる。
「君が謝ることではない。…すまなかった。」
こいつが泣いているのではないかと思った。
「あんたが謝ることでもねぇよ。
 ごめんな。あんたにつらい思いをさせた。」
こいつにオレが拒否していると言う事実を改めて突き付けてしまったようなものだ。
オレにそんなつもりはなくても。

「すまなかった。」
「あんたが悪いんじゃないって。」
「…すまなかった。」
壊れた懐古趣味のレコードのように男が繰り返す。
「おい!オレを見ろよ!」
まるで男が壊れてしまったかのような感覚に恐怖心を持った。
「…センセイ。すまなかった。」
「それはもういい!謝るな!」
いつかのようにあちこち強張った躰を起こして男を抱きしめる。

「謝るなよ。オレこそごめん。」
「君は悪くない。」
呟くように男が言う。
「なら、あんただって悪くない。」
男の髪を撫でる。
いつもこいつがしてくれるように。
「君につらい思いを…」
「そりゃあんただって同じだろ?」
どうしたらこの男を哀しませないですむんだろう?
それはオレが今一番欲しい解答だった。

「オレ、言ったろ?
 もしここで怖いとか思ったとしても、オレがあんたに抱かれたいって思ってることは変わんないって。
 ダメなら別の機会に考えようって。
 オレ、今もそう思ってる。
 ただ、ごめん。
 今はあんたを哀しませてしまった。
 ごめんな。」
オレがどう言おうと、こいつは自分のせいだと思ってしまうんだろう。
そんなこいつを喜ばせたかったのに。

「ごめんな。オレ、あんたが好きだよ。ごめんな。」
涙が溢れてきた。
自分が情けなくて。
こいつを哀しませた自分が許せなくて。
ごめん。
「あのさ…。オレに触れてくんないか?」
「センセイ!?」
「オレ、あんたに触れられると安心する。
 オレにもっとあんたを教えて欲しい。
 怖いんじゃない。
 愛されて気持ちがいいんだって。」
 思い詰めたような顔で男が言う。
「今度こそ、イヤだと思う前に私に言えるか?
 もう…人工呼吸などさせないでくれるか?」
ああ。
そんなにオレの息って止まってたのか。
あの苦しさから救ってくれたのはやっぱりこいつだったんだ。

「ん。きっと言えるから。」
きっと言わないで済むと思うのは、同じようなオレの驕りなのか?
そうではないと思いたい。
ゆっくりと息を吐いて男に告げる。
オレがいなくなることに異常な恐怖心を持っている男に。
「オレ、あんたが好きだ。
 ごめんな。怖い思いをさせて。
 あんた、怖かっただろう?」
くしゃり、と顔を歪めて男が言う。
「怖かった。…怖かったよ。
 君が息をしていなくて。
 私の前から消えてしまうのではないかと思って。
 ……怖かった。」
オレは男を抱きしめたまま、ベッドに倒れ込む。
「ん。ごめん。オレ、消えたりしないから。
 ずっとあんたといるから。
 な?」

それから今まで以上にそっと触れてくる男が哀しくて、オレの涙は止まらなかった。
オレはこの男に抱かれたいと思っているのに、それを受け容れない躰が許せなくて。
男に申し訳ないと思った。
ゆるやかな仕種ながら男はオレを昂ぶらせて。
一緒にイきたいと思ったけれどそれをやんわり拒まれて。
男にイかされるまま。
行き場のない焦りにオレは動揺していた。




Vol.22

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