モザイクのように木漏れ日が落ちる学校の中庭で
彼が目の前にいて、私に微笑んでいる。
卒業も間近だから もう会えなくなってしまうから。
桜の花が散らないうちに、私の気持ちを伝えたかった。
一方通行じゃなかった。
そっと私からキスをした。
初めてなのが、バレないように。
それでも震えは伝わってしまった。
男の人の唇って
もっと固いのだとなぜだか思い込んでいた。
その柔らかな感触は、一度感じたら離すことが
出来ないくらい、優しい魅力に満ちていた。
つかまるところがなく、背伸びをしていた。
恥ずかしくて目をつむってしまったから、
身体の感覚がなくなって、よろめいてしまう。
背中に回される彼の手が、熱く感じる。
触れているだけなのに、体中が火照りだす。
好きだという思いを、言葉にするだけで精一杯だったのに
幸福な思いが涙に変わる。
「…僕の、眼鏡を、はずしてみたい?」
ある時、教室で冗談めかして飛ばした言葉
「私、好きな人以外の前では絶対眼鏡をはずさないって人の
眼鏡をはずしてみたーい!」
「え?水泳とかどうするの?」
「それは別だってばー!」
「あはは、普通は外さないんじゃない?」
覚えていてくれた。
「でも、それって、なんか、ちがう、じゃん・・・?」
キスの感触が忘れられなくて、
それだけで嬉しくて、あまり深く考えられずに答えを返した。
「僕が眼鏡をはずすのは 好きな人の前でだけ」
彼はそっと眼鏡を胸ポケットに納めると
私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「そしてこんなことをするときは 眼鏡は邪魔なだけ」
先ほどの触れるような私のキスとは違う、
強引で激しいキス。
知りようがなかった、彼の一面が突然剥き出しになる。
口を閉じようとしても、無理やりこじ開けられる。
口の中で舌が暴れ周り、
何も出来ないまま嵐に巻き込まれる。
びっくりして彼を突き放す。
「こわかった?」
眼鏡をはずした彼は、
私の好きな彼とは違う男の人になっていた。
「今までのような、君に対して優しい僕が好き?」
うまく考えられなくて、
私の頭は先ほどの初めてのキスで混乱したまま。
「好きな女の子のことを、全部知りたいと思う僕は嫌い?」
イヤじゃない。ただびっくりしただけ。でも…。
つきあうって、こういうことなんだよね。
眼鏡をはずした彼は、
きっと私のことを抱きたいって思うはず。
すこし…怖い。
彼は ふっと笑ってまた眼鏡をかける。
「びっくりしたんだよね。ごめんね。好きだよ。」
いつもの彼に戻ってる。
本当の彼が見えなくなって、すごく不安になる。
好きって通じ合ったばかりの瞬間に、
私は、彼のことが分からなくなった。
たったひとつ、投げた言葉で
私自身ががんじがらめになっちゃった。
眼鏡って、そんなに、
彼にとって、大事な心の壁だったのかな。
わたし、彼のどこまで、知りたいんだろう?
め が ね