「え?今日もダメなの? ・・・ちょっとだけでもいいからさぁ。
 一度くらい、やってよ・・・。」



私はフェラチオが大嫌い。
嫌い、という言葉では足りない。 生理的に受け付けない。

 
彼のことは大好きで、性格も価値観も収入も
お笑いのセンスも、全部ぴったり。これ以上無い人。
もしも彼が「一緒に死んでくれ」と言ったら
私は無言で車に目張りをし、同乗して練炭を炊くだろう。

 
抱き合うことも大好き。
特に彼と私の性器はぴったり。
大きすぎることも無く、小さすぎることも無く、
曲がりすぎてもいなくて、時が止まるのも一緒。

 
彼は私の身体の隅々まで舐めまくる。
くすぐったいけど、気持ちがよい。
耳たぶから指先、へそからわき腹、ひざの裏側から
足の指まで丹念に舌で確認されているみたい。


もちろん性器だって。
彼の舌は指先よりも細やかに動き、
私はその動きが本当に大好きだ。

 
愛は受けたら返さなければならないのかな。

 
性は二人の間ではタブーなど無い、というけれど、
”したいこと”を行う自由は認められても
”したくないこと”をしない権利に対しては、わがままだと言われる。

 
彼は明らかに不満そうで
それが私と彼の間で薄い、亀裂を作っているのは
口に出さなくても、はっきりと分かっている。

 
握り締めることもできる。
触って上下運動を加えることも出来る。
身体の中に受け入れることも出来るのに


口に含むことだけが、出来ない。


含もうとした瞬間、嗚咽が来る。
性器単体に、嫌悪感が募る。
色もダメ、においもダメ、形も、脚の間にぶら下がる
こっけいな袋を直視することも、出来ない。

 
でも、彼には言えない。それ以外のすべてが好きだから。
だから、口をそむけて上に跨ることで、彼の気を逸らした。


 
次のデートは、二人の記念日。
映画を見て、プレゼントを交わし、夕食を共にする。
抱き合う場所はいつものホテル。
お風呂に入り、ゆっくりと身体を洗い、
これから起こる楽しいことに思いを馳せる。  


普段なら即座に私を抱きしめる彼が、何かをしている。
振り向いた彼の屹立した股間に、きれいなリボン。

 
「な、これなら、キャンディーみたいだろ?
 今日の記念に、オレのロリポップ舐めて♪」


胸にせりあがる嘔吐の前触れ。
湯船から飛び出しトイレに駆け込む。


彼がしてもらいたいことを、どうしても出来ない自分に涙が出た。  
       





                              Lolipop