no.5 性(さが)(3/3)


  



普通の男性の規格をはるかに超えるふたりがカウンターに並ぶと
少々異様ではあるものの、それを囲むギャラリーは
全くそのことなど意識はしない。


レシピには、チョコレートパフェ・ヨーグルトパフェ
そして、フルーツを多用したスペシャルパフェの3種しかなかった。


カウンター越しに置かれたレシピは見えず、
男たちはオリジナルを作ると決めた瞬間から、
調理台に自分が考える必要なものを並べていく。


余計な口を叩きまくったふたりが
じっと自分の目前の作業に集中している姿は、
壮健さと凛々しさを伴っている。


その気迫は、実際の生業に向かうほどではないにせよ、
十分女学生たちを緊張と期待に導くに足りるものだった。


ぺティナイフを器用に扱い、果物数種を見事に切り分けていく遼。
糸唐辛子を思わせるような、細く切り出された林檎の皮。

ファルコンは巧みな力加減でナッツ類を細かく粗切りにしていく。
チョコレートソースにチリパウダーとシナモンを混ぜ、
木ベラを細かく動かす様は、シェフの風情すら漂わせる。


「スポンジ取ってくれよ」

「そのココナッツはオレも使う」

「カラースプレーって言うのか?これ?」

「おまえはウエハースか?クッキーか?」


絶妙のコンビネーションを短い言葉で交わしながら
男たちはパフェを手早く黙々と作り上げていく。

 

女学生たちの座る卓に並べられた4つのパフェは、
ガラス細工のように美しく盛り上げられて
その場に居た全員の目を釘付けにした。



「ど、れも、選べない・・・」「素敵・・・」
「わ、わたしたち、お金払いますから、1位を選ぶのはやめていい?」
 

パフェは、早めに手をつけなければ、すぐに形を変えてしまう。
美樹は微笑みながら、その完成度について、両成敗の裁定を下した。
それにじたばたと異論を唱えようとする遼を、
ファルコンが羽交い絞めで止めている。


「さ、どれを選んで食べるかをみんなで決めてね」

  
自分たちは3つのパフェをそれぞれ味見が出来るから、という
女学生たちの勧めに従って、香は自分の食べたいものを選ぶこととなった。   
 


「どれも、綺麗なんだけど、私が一番目を引いたのは、これ・・・」


  
彼女が手に取ったものは、シンプルな紅白に彩られたパフェ。

  
スポンジの層の合間にバニラアイスクリーム
フランボワーズ・コンフィチュール
薄く生クリームでコーティングした上には
雪のごとくココナッツが降り注ぎ、  
頂点には林檎が薄切りにされ、朱の細いラインを伴いながら
羽根のように重ねてあしらわれている。
 

女学生たちもおのおのチョコレートや果物に彩られたパフェを
手に取り、嬉しげに甘味を堪能しだした。


それは香とて同じで、
そのパフェを崩しながら、頬を染めつつ、
口中に広がる幸福を噛み締めるように大切に食べていく。  

 
コーヒーを飲みながら、遼はただその香を見つめていた。

  
  
「じゃ、ごっそさーん」
「ごちそうさまでした!美味しかった!ありがとう!」

     
彼らが去り、女学生たちも感謝を述べつつ喫茶店を後にしてから  
美樹は改めて、遼のイメージの強さに感服する。


「ねえ、ファルコン。スペシャルパフェの跡形も無かったわね…」 

「ああ。香はあいつにとって天使なのか?
 全く、口に出さないだけで心底ロマンチストなんだな。
 オレは一応チョコとヨーグルトをレシピ通り作ったし、
 遼も、もう一つのスペシャルは何も手を入れず出していたな」

「ふふ、ありがと。
 それより驚いたのは、迷いもせずに冴羽さんの
 ほんとうのオリジナルパフェを香さんが
 ずばっと選んだところよね。しかも一目でなんだから!」
 
「ま、外野が言わずとも、当人たちは・・・だな・・・」

「わたしたちは、どうかしら?」


美樹はそっとファルコンに寄り添う。
そして彼は、遼が手に取った林檎より、赤くなって沈黙するのだった。
 
  
そんな彼にもっとぴったりと近づきながら、美樹は囁く。


「C'est bataille PARFAITe pendant des jours doux paisibles,
 ne pensez-vous pas ainsi?」
 (This is PERFECT battle for peaceful sweet days,
 don't you think so?)






                          end.









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060903
ぱてぃしえさんってかっこいいですよね
あと、美樹さんが居たのってなんとなくフランス外人部隊なイメージでした


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