no.5 性(さが)(2/3)
美樹はふっと嘆息する。そして思う。
彼らの行動は予定調和のことが多いが、いかんせん
熱くなると周囲が見えなくなることがある。
それじゃなくても珍しく今日はお客さんが多くて嬉しいのに。
あーあ、またお互いに挑発しあっているわ。
ふたりの”おまえのかーちゃん”レベルの口喧嘩を
仲裁するのは無駄だと分かっている。
・・・じゃ、けしかけちゃいましょ。
この機会に、冴羽さんが香さんをどう思っているのか
試してみるってのも、ありよね・・・。
私はひとり、どう口火を切るかを瞬時判断する。
「ね〜え?お客さぁん、あなたたち、パフェオーダーするー?」
そのつもりー、と口を揃えて言う女の子たちを見て、
遼とファルコンは一時口を閉ざして私に注目した。
「じゃ、即席品評会を開催しまーす。
これから、マスターと、この彼が、パフェをあなた方に作るわ。
どのパフェが一番素敵か、あなたがたが審査員!」
うわあ!面白そう!と声が上がり、
男たちは俎上に否応なく乗せられることになった。
香さんのオーダー分も入れて4つ、おのおのが2つづつ。
自分のオリジナルのパフェを、キャッツのレシピブックを参考に作り
一番、票が集まったパフェを作った方が勝ち。
「ヘン、オレが勝つに決まっているからな。
遼、お前が負けたら4つ分のパフェ代、ツケにするぞ!」
ファルコンが乗ってきた。
これで後は冴羽さんを引きずり出して、追い詰めるだけ。
「じゃ、オレが勝ったらどうするよ?
みっきちゅわーんとでーええと・・・・おぉっ!!」
飛び掛ってくる冴羽さんを撃退すべく、
お盆を顔面に差し出すより先に
”ツケ増やすな☆5963t”ハンマーをどしん、と構える香さん。
香さんはまだ私の意図に気がついていないけれど、
冴羽さんの背中を押し出してくれたようなもの。
戦闘に対しては
背を向けて逃げることも許されなかった私たちは、
売られたお遊びの喧嘩すら、上手くかわすことが出来ない。
ただひたすら受けて立つ。その理由など後付けだ。
ぴょおん、と怯えの条件反射のまま、冴羽さんはカウンターへ。
「遼、とりあえず、あんたが勝ったら
女の人の依頼でも、話聞いてくるから。
内容ありきだけど、請けるし」
おう、と香さんの条件を飲み、
うわぁ、お店のおごりだぁ、とかわいらしく喜ぶ女の子たちを見て
やれやれ、と笑みを見せながらエプロンをつける冴羽さん。
その耳元に向かって、私はこっそり囁いた。
「スペシャルパフェの構成は、香さんをイメージして作ったわ」
一瞬だけ動く眉。
さあ、冴羽さんはどうするのかしら?
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