no.20 銃
bullet melancholy
銀狐との闘いの後、パートナーとして居座ると宣言した私。
翌日、遼が私に伝えた言葉は
「香、そういや、武器とかトラップ材、どこから調達した?」
教授の家や海坊主さんの倉庫、そしてウチの在庫まで
全部しっちゃかめっちゃかにしてしまった私。
「人から借りたものは手入れしてから返せよ!ったく・・・。
火薬屑を綺麗に拭き取って、油さしとけ…ってお前知らないよな」
頭に血が上っちゃうと、後のこと、考えなくなっちゃう。
気をつけなくっちゃ・・・。(遼のナンパについては絶対無理!)
昨日の威勢は今日のしょぼくれ。
部屋の掃除をしているときにはソファの上から全く動かない遼。
それなのに今日は何だか足運びが速い。
武器庫にあったS&Wを持ってきて、基本の手入れを教えてくれた。
遼の、銃の取り扱い方はとても繊細だ。
長い指、大きな掌に包まれている銃は、
本来ならば人を傷つけてしまうものなのに
遼の手先が慈しむそれを見つめていると、
どうしても禍々しさは感じられない。
ばらばらのピース、リズムを持って磨き上げられる砲身。
カチリ、と音を立てもとの形に復元される銃。
きっと遼は一度しか教えてくれない。
二度目に私が聞こうとすれば、
きっと遼は黙って私から離れていくだろう。
セカンドチャンスなど絶対に望めない、
一瞬の判断が生死を分かつ、遼の生きる世界。
私はここに居たいから、絶対に覚えなくちゃいけない。
ガンオイルの香りは、今まで嗅いだことの無い印象を受ける。
それを手に取ったとき、
遼が少し、目を細め、眉根をひそめた。
・・・ダメ、なのかな。
本当は、こういうこと、私にはまだ早いと思っているのかな。
がんばらなくちゃ。大丈夫だって証明しなくちゃ。
遼の傍に居たいから。
震える手つきで、先ほど遼がやったことを、同じように繰り返す。
「うぉ、それ違うから!」
砲身を自身に向けて拭こうとしてしまった私の手を
遼がぐっと押さえつけ、自分の身体に向ける。
その行動の素早さに、自分がしてしまった間違いが
どんなに重大だったのかを思い知る。
「・・・ま、初めてだからな・・・」
弾丸が入っていないときでも
絶対に自分の持っている銃の銃口は自分には向けないこと。
どんなときでも忘れちゃいけない。
それを身体に叩き込んでおかないと、
暴発や気の緩みの瞬間に、致命傷を負ってしまうことになるから。
考えれば思い至ることが
教えられなければ気づくことが出来ない。
銃の手入れ一つ、上手く出来ない。
リロードと発射だけを教わっていた銃だけど
これは私たちの商売道具。
私、パートナーとして何も出来ていなかったの?
銃に触れる手が、上手く動かなくなってしまう。
シルバーの冷たい手触りが、途轍もなく重く感じる。
「ま、ゆっくりやるんだな。わからないことがあったら
必ず聞け。自己流でやるなよ」
遼は私の頭にぽんと手をやり、髪の毛を撫でてくれた。
その後、にっこり笑って
「じゃ、リョウちゃんナンパしてきちゃおっかなぁ〜」と
そのままどこかへと出かけていった。
ムカっとはしたけれど、今はそれより目の前の銃・・・。
借りたものだし、早く返さなくちゃ・・・。
私が使ったたくさんの銃器を
一つ一つ丁寧に、練習を兼ねて手入れをしていく。
無心に磨いていくうちに、
高く昇っていた陽は窓辺の向こうで、いつしか傾いていた。
一段落ついて息を吐く。
ふと、思い出す。
私の手を暖かく包み込んだまま、自分の身体に銃口を向けた遼。
もし、あの瞬間、装弾されていたら?
もし、あのとき、私の指がトリガーにかかっていたら?
自分のしてしまった行動の意味に気がつき、ゾッとする。
そして同時に、あの咄嗟の遼の動き・・・。
怖くてそれ以上の意味を考えることが、出来なかった。
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