no.15 家族
Warm breath , color of white(白く暖かな吐息)
足元から這い上がってくる冷たさが意識を覚醒させる。
心配している素振りを見せて、
連絡一つ寄越さぬ男の帰りを待つのは自分のため。
明るい笑顔の仮面の下で
孤独と親しむ術を身につけている自分だけど、
男にはそれもきっと見抜かれている。
朝帰りは当たり前。
部屋に満ちる白墨の世界で光を感じれば、
男の不在から一日が始まる。
この季節に新宿を意味なく歩き回るのは危険だ。
昼間の喧騒はプレゼントを差し出す相手の存在がある人々の
浮かれた熱に満ちている。
金銭の高低に関わらず、
「誰かへのプレゼント」がディスプレイに満ち溢れている中で、
自分の必要なものだけを買う現実。
頬に注ぐ陽の光の優しさに気を取られると、
いつしか周囲は暗くなり、
目前には誰かと一緒に見ることが前提となっているような
イルミネーションの渦。
いつもより攻撃的で、そして壮絶なほど嘘臭い。
キリスト教徒ではない自分が
心中で目の前のいちゃつくカップルを断罪したとしても、
誰も責めはしないかわりに、誰もわたしの隣には立たない。
本当に隣に居て欲しい男は、たったひとり。
そしてその男は今此処には存在せず、そして消息はわからない。
怒るのは男のためではなく、自分の存在意義を確かめたいから。
クリスマスと年末は、ひとりを歩むものには
心をざわめかせるものに満ちている。
それが辛いと認めてしまうと、
きっと自分を自分で支える何かが折れてしまう。
だから認めない。そして怒る。
ハンマーは自分の中の矛盾を意識すればするほど
大きくなり、そして目に見える重たい愛情に転嫁する。
男はそれもきっとわかっている。
恋人じゃない。
パートナー。
だけど、どの「part:部分」をわたしは
あの男と共有しているのだろう?
何も見えない。
暖房をかけない部屋は冷たく凍りつき、
動作ひとつひとつを意識させる。
息を吐けば、あの男が吐き出す紫煙と
同じくらいの濃度の白い息が出る。
行き先の無い白い霧はいずれ消えて、そして存在を消滅させる。
不穏な空気を自分で纏っていることに気づくまでも無い。
そのままブラックコーヒーを飲めば
もっと頭はクリアになるだろうと信じて、
頭上の戸棚からコーヒー豆を取ろうと手を伸ばす。
_クリスマスブレンド_
12月の初旬に入り、男と飲もうと思って
少量を奮発して買った冬向けの深煎りコーヒー。
その数日後に
「土日がクリスマスイブイブとイブー、俺うちにいないからさ!」と
にっこりと先に宣言されてしまった。
確かに25日は月曜日。
土日に男が家に居なくとも、わたしは恋人ではないのだから、
何か異論を唱えることのできる権利は無い。
ひとりで飲もう。
あたたかくして、ミルクを少し入れて。
隣に居ない男の好みのホットコーヒーを、指先で感じながら。
と、かさり、と落ちる白い封筒。
逡巡の前に無意識が働き、
そのまま緩慢な動作で封を開け、中身を読む。
その瞬間吐き出した息は更に白かったけれど。
早朝の寒さは歓喜の温もりで暖かな気配に
変わるものだと分かった。たった一文で。
その意味が分かっていたから。
「こいつは二人で飲もう。それまであけるな。
ちゃんとお前のところに帰るから。
wrote12月3日←この日、何の日か調べておけよ」
fin
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061226
12月3日は「妻の日」。
http://wifesday.com/index.htm
「年の最後の月である12月に、1年間の労をねぎらい妻に感謝する日」と
いう意味で、最後の月(12月)+感謝を表す「サン(3)クス」(Thanks)の語呂合せになっています。
サンクスーはコンビニ〜♪だ・け・ど近所にあるのは
スリーエフ〜♪どっちも数字の「3」が入ってるよ〜ん♪
妻って、恋人よりも重たくて、パートナーよりあったかい。
だけどいっつもおいてけぼりっぽく感じちゃう。
長く時を過ごせばすごすほど、空気のように当たり前で…。
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