カーテンで遮光された部屋に転がる
ケータリングの中華の空ボックス。酒瓶。
５ガロンペットボトルの中でたゆたう水に
乱反射するは、細く差し込む激しい日差し。
「Aaaaaaaaare you still aliiiiiiiive? ryo?」
（おーい生きーーーーてるかー？）
ノックもせず、ドアを開ける。
香ばしいコーヒーとドーナツを持ったオレが纏うは
後光が差すような晴れやかな慈愛に満ちた笑顔。
パートナーに向けるくらいなら異性に見せたい、が
コイツが今どんな理由で心中の闇に堕ちているかを
天使のミック・エンジェルことオレは知っている。
だから自然にこやかにもなる。
「DO NOT YEEL AT ME, spread beaver hunter!」
（どなるな、女のケツ追い野郎が！）
空腹と苛立ちとで唸り声を上げる猛禽類のごとく
無防備に聞けば
近寄ることすら出来なくなる気配と声音。
ためいきひとつ。
扉に背を向けるようにしてベッドに寝転がる男に
一跳躍で飛び乗る。
胸倉を掴み半身を起こさせ、親愛なるキスまで
後、数センチのところで鼻につく、ひどい安酒の香り。
「起きろよ、ジェーンがお前と会いたがっている」
ミステリアスと言えば聞こえがよい、
何も感情を表に出さぬ鉄面皮は寝起きでも崩れない。
ハンサムな黄色いヤツってのは、
その視線の一瞥で女を落とせるから楽だよなぁ。
「彼女とはもう終わったし、仕事も終わっているだろう」
「相手はそう思っちゃいねえよ」
眠気覚ましのコーヒーの紙コップを手に押し付けて
ご丁寧に煙草にも火をつけ
リョウの口元に強引に差し込む。
ようやく覚醒したかの演技をしながら、
シャワーに立つアイツの背中を見送る。
カーテンを開け、灼熱の乾いた空気を部屋に招き入れる。
目前に広がる荒野の中で、今回の依頼主は
暴力と窃盗と麻薬に溺れる夫の殺害を願った。
南部の肥沃な川べりの中に咲く可憐な花のごとき
芯のある優しい女性の門出は
赤く血塗られなければならなかった。
イイ女なら誰でも、特に依頼人など
逃げる限りは追い続け、手中に収めるまで
ありとあらゆる手管手段を使い分け、
自発的に足を開かせる。
俺達二人が同じ女を堪能することは珍しくない。
…違う男の腕に抱かれて
今までの亡霊を完璧に振り切るアフターケアも
法外な報酬の中には入っているのさ。
リョウは女、子どもを殺せない。
なぜかは聞こうとも思わないが、
いつぞやの銃口の震えでオレは悟った。
その役割はオレが担う。
あいつの銃の腕は
確かにオレよりも凄まじく精度が高いが
「割り切る」術を自分の心に見出せない限り
オレの方がアイツよりもプロフェッショナルだ、と思う。
たとえそれがオレの独りよがりだったとしても、だ。
だらしの無い濡れ髪のまま、リョウが部屋へと戻る。
乾いた空気に満ちた明るい部屋では
その水滴もすぐに消えて無くなる。
「ドーナツはお前が食え、コーヒーは貰う」
「…ジェーンに惚れたのか」
刃のごとき視線が、ギラリ、とオレに向けられる。
ははぁん、図星か。
「誰が、惚れるかよ、
お前のように連絡先などぺたぺた残せるかっつの。
オレは一人になんて縛られたくないもんねーだ。」
口調の気軽さとおどけた態度とは裏腹の暗い顔。
差し込む太陽の光は眼を焼くほどの疎ましさになる。
カーテンを薄く引き、黒と灰の世界を作り出したリョウは
当然のように濃い方へと歩みだし、腰を下ろした。
お前は優しすぎるんだよ。
自分を蔑み、自らの落ち着く場所を闇に決め付ける。
そんな男が女を幸福になど出来ないと決め付ける。
誰も女はお前にそれを望んじゃ、居ないかもしれないのに
芯から利己的になれぬその精神は、
一体どこから育まれたんだ？
ニホンジンの本能、かねえ？
クスリと笑い、言葉で片腕ジャブを打ち込む。
「それじゃ、オレがジェーンを貰っていいんだな？」
ストレートで返される。
「…彼女を色よく鳴かせたいなら、膝の裏さ」
フフン、ここらでお前の天狗鼻を折らせてもらうさ。
「 oh! babyface, I know it. 」
不埒な女を責めるでもなく、
惚れかけた女を心の海底に埋葬するために
リョウはまたも不貞寝を始めた。
さてと、ジェーンとこってりデートしてくるか♪
そうそう、リョウ、お前甘いよ。
彼女の本当の泣き所は、ひじの裏側なんだぜ。
癪に障るから、教えてやらないけどな。
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060628
みっくせんせいはバイばいきーんぐだとおもう
