エキスパートとして育成した特殊部隊の身内を大量に失い、
更に目的のものを得ることが出来なかった軍隊の
報復の矢面に真っ向から立つことになるのは、反政府ゲリラとなる。
それを見越し、
更にスケープゴートに仕立てようとしているシンジケート側は、
俺に1契約分の37倍、つまり約1年分の報酬を与えた。
そして、海原に対して言伝を頼まれた。
その内容は、亡くした仲間一人に付き、慰謝料として
俺が得た同額の金を、現金ならどんな通貨でも、
金塊でも、振込みであろうと、希望の形で寄越すということだった。
陳謝とはほど遠い名ばかりの、金輪際関わるなという言外の意味。
手切れ金だと察しても、何を言い返せるだろう?
伝言は確かに受け取った、後日海原から連絡する。と言った途端
俺は村へ戻るための最寄地点にある中継所で降ろされた。
ずしりと肩に食い込む現金の札束の袋を抱え
血まみれのサンタクロースが村に帰るよ
村のものは喜ぶだろう
それと引き換えに、俺がやった行為は
この地に降らぬ雪の白さのように、
正しいといえるのか、誰か教えてくれよ
疲労は足取りを重くする。
村の入り口まで戻ると、そこには海原が待っていた。
オヤジの目を直視できない。
同じ道を通り抜けてきたとは思えぬ、その威風堂々とした姿勢。
オヤジ、どうしてあんたは、そんな風に立っていられるんだ?
気を抜けば、膝から震えが止まらないほど、今の俺は情け無い。
「良くぞ戻った。連絡は来ているし、伝言も別口で貰ったぞ」
「ああ。・・・オヤジ・・・」
「みなまで言うな。わかっている」
そうして、オヤジはよれよれの俺を、強く抱きしめた。
「良くやった、おまえは、俺の自慢の、息子だ」
暖かい腕の中で、その言葉は、
俺の全ての疑問を吹き飛ばすほど強力な呪文になって、
心に刷り込まれた。
そうして俺は緊張の糸を解き、
数ヶ月ぶりの自分の床にばたりと横たわり、汚泥と化した。
絶叫で目が覚める。
激しい動悸と、酸素を求め収縮を急激に繰り返す肺。
自分を覆う、玉のような汗が
身体を起こすと同時に滴り落ちていく。
意思によって止めることの出来ない震えを覚える。
嘔吐感が高波となって腹の中で渦巻く。
吐き出そうにも、胃の中にモノは無く
身体が示す過激な反応に、ひたすら耐える。
「俺はオヤジの、自慢の息子。
たとえ人殺しをしても、オヤジだけは俺を自慢に思ってくれる」
誰にも理解されることの無い日本語の呟きは
確実な安定剤として自分の耳に再び戻ってくる。
独り言はなるべく言わない。
だが、こんな目覚めから自分を正気に戻すには、絶対に必要だ。
違法の枠を軽々と超え、
自らの傲慢を報復の意思として混在させる
政府との闘いは目前に控えている。
殺さねば、殺される。
一人前のゲリラとして、
オヤジの自慢の息子として、
これからもっと殺していくのだと覚悟を決めてしまえば
恐らくこの目覚めと完全に縁を切ることは一生無いのだろう。
悟って、俺は哂った。