no.44 生きる(6/9)
「リョウ、襲撃か」
「ああ・・・相手は恐らく軍隊。20人前後。
俺が外に出たときには既に包囲完了、どうする?」
「・・・どうもこうも、ねえな。あちらさんは狩人、俺らは獲物♪」
「どちらが先にチェックメイトを取るか・・・
これでここを守りきれば、俺らすげえご褒美だな!」
「Providence del dios!Ademas satisfara probablemente!」
(神のご加護を!また会おうぜ!)
到底勝ち目の無い、死に戦を目前にして、
己が共に時間を過ごした仲間の陽気さは一種壮絶なものだった。
誰もがこの状況を覚悟し、そして実際に訪れた舞台の開幕を控え
笑い飛ばしながらも、誰も目は笑っていない。
これが彼らとあいまみえる、最期の時だと、誰もが知っているから。
極力気配を消し、
納屋の中にある銃器を、それぞれ手分けして保持する。
バックヤードで繰り広げられていた
男たちの睦事の物音はもう聞こえない。
彼らは昇天の前に喉を切られたか、
それともこの世で感じる快楽のひとつを
手にしてから天に昇ったのか。
後者だったらまだ救われるな、と思いながら苦笑する。
極限で感じる生への渇望は、
シンプルで、体験したことの無いものに転嫁されるほど
強烈に自分の中に刷り込まれる。
・・・俺も、これを通り抜けることが出来たら、絶対に女を抱こう。
そうだ、死んでからじゃ遅いんだよ。
やりたいこと。良いって言われたこと、全部やってやる。
生きる目的?糞喰らえ!
今にも脳天にタマぶち込まれる寸前だってのに、考えられるかよ。
唇を噛み締め、渡されたライフルと弾倉数個を身に装着し
緊急用に作られた机下の穴からそっと納屋の外へ向かおうとする。
どん尻だった自分の、頭上にあった蓋を閉めた瞬間、
砲撃音と共に、それまで納屋だったものが
一瞬のうちに炎と化した。
衝撃は凄まじく、その身は地に唐突に放り出された。
そのまま受身を取り、立ち上がる。
自らの背を護るために、目前の木に向かってジグザグに走り出す。
身を低くして走るその先に、銃弾が次々に着弾していく。
立ち止まることは即座に負傷、死に繋がるこの時間の中で
誰をまずは捕らえるか。
逃亡は許されない。
仲間を見捨てて村に帰れば、
その時点で俺の烙印は「臆病者」に確定だ。
茂みに駆け込んだあとすぐ、自らが教わった知恵を振り絞り、
納屋から引っ掴んできた麻縄を、首の高さ近辺に張り巡らす。
攻撃を仕掛けている軍隊側に
弾切れという概念は基本的に存在しない。
豊富な装備と配給/退却ルートを確保した上でなければ、
あからさまな砲撃は自らの存在を誇示するだけになる。
だが、こちらには弾数も、人員も圧倒的に少ない。
そんな劣勢の中で命を護り、そして朝日を拝むためには、
接近戦で一人一人ツブしていくしか、手立ては無いと俺は思う。
炎によって明るくなった舞台。
畑へ向かい猪突猛進した一人の男が
蜂の巣になり、赤い液体を撒き散らして昏倒する。
包囲網は狭まっている。
走り出した男の背後を守って居た仲間が、
銃撃の方向を正確に捉え、一人一人銃撃していく。
防弾ジャケットを着込んだ特殊部隊の人間を狙撃し、
致命傷を負わせるためには、
まず足を撃ち抜き、動きを封じ、そして顔面を狙うしか手立ては無い。
その2つのステップがこちらの位置を教えることにも繋がる。
打ち合わせをしなくとも、誰かがスケープゴートになり
怪我を負うか、命を散らしていく目前で、
必ず一人は討ち取る方法を仲間は取っていた。
息を潜め、自らも戦いの最前線に飛び出す機会を狙う。
・・・つもりなのだが
足が動かない。
目前で繰り広げられる情景が、現実のように思えず
そして、身体と気持ちが石化した状態で、言うことを聞かない。
茂みの中で、ただ、実際の戦闘を傍観者として
眺めているだけの状態を、誰が腑抜けと罵れよう?
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