絶叫で目が覚める。
激しい動悸と、酸素を求め収縮を急激に繰り返す肺。
自分を覆う、玉のような汗が
身体を起こすと同時に滴り落ちていく。
意思によって止めることの出来ない震えを覚える。
嘔吐感が高波となって腹の中で渦巻く。
吐き出そうにも、胃の中にモノは無く
身体が示す過激な反応に、ひたすら耐える。
ゲリラの副業のひとつに、
ドラッグシンジケートが栽培・精製・運送・販売する
数々の麻薬に関わる畑や工場、港の警備がある。
自分が知ろうと思っても、
組織の成り立ちの形の一片をつかむことも出来ない程、
大量の人間がそこに関わっている。
美しい摩天楼のビルの屋上で酒盃を傾ける、
頂点に立つ人間たちと
泥まみれで防衛のための銃器を持ち、
神経を尖らせて目前の畑を守る、
下辺で這いずる人形たちの間に、面識など求めようも無い。
下手に知ろうとしてはいけない。
上から言われた事だけを、忠実にこなしていくことが
自分の命を守る、ただひとつのルールになる。
本当に何がそこで行われているかを知り、
自分の配下を持ち、のし上がり、より富むためには、
自分の実力を磨き、顔の見えぬ天上からの声が降りてくるのを待つ。
それが唯一の、道。
オヤジは言う。
これは束の間の必要悪なのだと。
生活水準の不平等、教育の機会、貧困、
この国のバランスを少しづつ良くするための運動に対する、
資金調達なのだと。
我々はシンジケートの一員では無い。活動家なのだ。
あくまで我々は警備業務に関わる、
プロ集団として彼らと契約しているだけだ。
していることの違和感に対する、飲み込まされる正論。
教えを乞うた者に、
疑問はおろか口答えの一切を許されない場所。
配給を貰うためにそれに応じた働きをしなければ、
村の中で捨て置かれるだけで、
他の子どもたちとじゃれあう遊びもまた、
戦闘術の延長として捉えられた。
肌の色がひとりだけ違う者は、標的にされやすい。
回数を多く戦うことによって、
リョウは、同年代の若者の誰よりも、
素手での戦いに秀でることになった。
それは同時に、身体中に常に痛みを伴う生傷を負うことにもなる。
より強く。
より、オヤジの役に立てる、
有能な人間として周囲に認められること。
「力」が全てを凌駕する異国の、更なる特異な環境の中で
己の拠所はただひとり、
実際の戦闘に臨む態度と頭脳の側面で慕われていた、海原だった。