albums (5/21)


そうしてあの事件を経て
微笑みを浮かべるリョウの隣に、一人の少女が居る。


たとえ香さんの心臓が移植されているとしても

彼女は全くの他人。


しかし全ての状況が、彼女をこの日常に留めるべきだと示唆する。
それ以外に、方法は無いのだと指し示す。
私自身も最善が何かを分かっているのに
この憤りは何なのだろう?


私ですら許されなかった場所、
私ですら触れることがかなわない話題、
私に見せたことの無いリョウの心の領域に
彼女はするりと入り込む。


感情的に許せない。


パーパとリョウをあどけなく呼ぶその子が
戸惑いながらも一途に彼を慕い、
それに笑顔で応えようとしているリョウの姿が許せない。


社会常識も日常的なしきたりについての知識も無く、
人との関わりを意図的に閉ざされてきた生活を過ごしてきた、
この子の危なっかしさだけが私の心配を掻き立てる。


あのリョウがそんな子の父親になる?
女にだらしの無い男が、これから思春期を迎える娘を持つ?


・・・きっ、危険すぎるわ・・・


しかも、香さんの意識をそのまま持っているだなんて。
即座に言われて受け入れられることではないわ。


意識だけの香さんに何を言われたのかは分からないけれど、
あなたにとって、
この子は「帰ってきた香さんの代わり」ではない。
そうでしょう?


それなのに、引き取ると決めた後のリョウは
信じられないほどに落ち着いて
現実を素直に受け入れている。

以前、香さんが傍に居たときのように。

あなた、そんな男だったの?
香さんのことをそんなに簡単に、片付けられる男だったの?
どうして私の前に、この子の中に居るという
香さんは出てきてくれないの?


振り返る、この1年ちかくの時の長さと
私が彼に対して伝えていた「友愛」。
それらは届いたようには見えず、
数日の激しい展開と共に現れた彼女が急激に彼の心を開いていく。


私が孤独であるということを
私があなたの心にとって無力であるということを
お願い、意識させないで。


寄るすべと支えを、幻想の中ででも見出すことを決めた
リョウの弱さに腹立たしさを感じるのは
生活に、職務に、
曖昧さが許されない私のリアリズムに
私自身がプライドを持っているからなのかもしれない。








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