albums (4/21)
歳末特別警備が終わり、除夜の鐘を聞き終えても
私がゆっくり休めるわけではなかった。
三が日も過ぎ、署の外から見える木々の枝が
寒々しく風になびいても、私の思いとは裏腹に
日々の激務は私の処理能力を試してくる。
新しく配属された子たちの初々しい制服姿に目を細め、
重いコートを脱ぎ捨て、暖かい風が頬を撫ぜる頃になった。
外回りのついでに息抜きをと寄った
キャッツで、取り留めない話をぽつぽつと紡ぐ。
プライベートでの私の最大の不安材料についての話を
結局は持ち出してしまう。
そんな時、必ず彼は回りに気づかれぬよう、
ぼそぼそと母国語で話す。
「…that's called Jumping Mokko-ri Catch,
what a stupid guy …」
(じゃんぴんぐ・もっコり・きゃっち だとよ、バカ男が…)
ホテルのプールで女性を乱獲するリョウを見た、と
ファルコンお抱えの目利きが伝えてきたと言う。
……
バカかっ!!あいつは本当の馬鹿だ!!!
こっちが痩せそうなほど(あら、これはダイエットにいいかしら)
気にかけているっていうのに!!
ずっと心配している仲間に真顔で顔向けするのが
こっぱずかしいのかあいつは!!
ぴきーん(怒)
ふっ、ふざけんなよぅう。
とりあえず表に出てきたんなら、こっちから捕まえてやる!!
後ろから
「hey, saeko, You can't kill the dead man in twice...」
(おおい、冴子、一度死んだやつをまた殺すなよー…)
おずおずとファルコンが声をかけてきたのにも、
返事をせず、ずかずかと噂のホテルに足を向けた。
カウベルのコロリカランと鳴る音が
私の報われない気持ちを
少し宥めてくれたかも・・・いやそんなことないわね!
ふんっ、
10倍にしてアイツに熨しをつけて返してやるわ!
ほぼ1年ぶりの彼の行動を自分の目でしかと確認するために、
ホテルのプールに強引に乗り込む。
しかし、そこにあるのは
以前の彼ではない、更に硬い殻をかぶった道化の顔。
瞬間で分かった。
彼は癒えているわけではない。
それを見透かされるのが分かっているから、
近しいと彼も思っているであろう、
私たちの前に姿を見せることを、無意識にでも回避したのだろう。
では、何をきっかけに彼は動くことに決めたのだろう。
それさえ分かれば、私はある意味、
槇村も香さんも、思い出に出来る。
狂おしい程の気持ちを込めて誰かを思い、
それを喪失した者同士として、今後も彼と歩んでいける。
また、彼にしか頼めないような事を持ち込める筈。
彼の話を要約すれば、こうだ。
香さんの心臓は移植目的で奪われたのだろう、
故に彼女はまた、オレに会いに新宿へ帰ってくる。
一度は心に刻み、整理をつけようとした犯人とその結末に
彼は真っ向から異論を唱え、挑みかかろうとしている。
そのために、
奪われた心臓の行方を彼は探そうと言うの・・・?
彼が物語の結論を、
自分で幕引きするために真実を探そうとするのなら
ならば、私も、
私しか得られない方法で考えてみることにしよう。
って、やっぱりコイツアホだ!
何で新宿中のおねーちゃんの胸元見てるんだか!!
それで移植跡が分かったら驚きだわよ!
ただ単にお胸、見たいだけなのかしら?
私、色々リョウについて、考えすぎ?
香さーん、香さーん。
あなたがしょっちゅう感じていたお怒り、
今となっては、私、ものすごーくわかるわー。
なぜ私、ハンマーを彼女に貰わなかったんだろう??
10倍返しの方法はとりあえずロープ簀巻きに
コーヒー熱湯責めにしておいたわー。
ほんと、これじゃあ、足りやしない。ふう。
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