albums (21/21)
「・・・さあ、そろそろ夕食時だし、
ちゃちゃっとご飯を作っちゃいましょう。
とりあえず今日は時間も無いし、全部作るから見てなさいな」
スーパーで買出しをしたものを袋から取り出させ
冷奴に、肉と野菜の炒め物、若布の味噌汁とご飯を仕立てる。
私の包丁さばきに歓声を上げる、あーちゃん。
味噌汁の塩加減を味見させるため、椀を手渡す。
「そういえば・・・リョウパーパの写真、
アルバムに一枚も無かった。ずっと撮る側だったのか」
シンクに手をかけながらあーちゃんが言う。
「でも、写真立ての中に、
変な顔したパーパとマーマの写真があった。
大事な写真だから、別に飾るのか?」
「そうね。リョウもあなたと同じ。
写真を撮られてはならない側の人間だったのよ」
「・・・シティーハンター。わたしも、それになる」
「これからは、二人で写真を残せばいい。
たくさん撮って、あのアルバムを埋めていきなさい・・・」
「写真、残しても、いいのか」
「Of course! You're no more called just a number.
You, Ah-chan, Make your own happy memory with Photo
like your mother and uncle did!」
(もちろんよ!もうあなたは番号で呼ばれることは無いの。
あーちゃん、お母さんと伯父さんがやったように
あなた自身の思い出を写真と一緒に作りなさい!)
アテにならないリョウの帰りを待つのもバカバカしいので
二人で食卓を囲む。
何気ない当たり前のメニュー。
けれど、私自身もいつもより美味しく感じてしまう。
油を扱ったときは洗剤を使うこと、などを教えつつ
片付けも一緒にやり、風呂の使い方も一応確認。
余計なお節介とは思っても、自分の安心のため。
残務処理のことが頭から離れず、直帰は出来ない。
食事も摂れたし、家に帰れるのは明日かな、
署に替えの下着、置いてあったかしら、と
考えながら帰り支度を始める。
「さえこじぇじぇ・・・帰るか・・・仕事、いくか・・・
ありがとう・・・また、来てくれるか・・・?」
さみしさを声音に滲ませながら
それでも私の事情に思いを馳せるだけの、優しさがこの子にはある。
「ごめんなさいね、眠くなったらリョウなんか待たないで
ちゃんとお布団に入って寝るのよ!
そろそろ暖かくなっているけれど、冷える夜もあるんだしね」
「うん」
「じゃあね!キャッツでも会いましょう!仕事いってくるわ!」
「行ってらっしゃい!気をつけて!」
後ろ髪を引かれる思いを見せれば、
きっとあーちゃんは、私にもっと甘えてくれるだろう。
しかし、私には現実的に、出来ることと出来ないことがある。
私の中のプライオリティが職務を最も優先させるから。
私は、あーちゃんの母親ではない。
本当の伯母(bo-mu)になっていたかもしれない
そんな夢想を語る時がくるまで、それは私の心の中の秘密。
だから、突き放す。
その、匙加減を、決めるのは、私。
ドアの向こう側から廊下に戻り
後ろ手にゆっくりと音を立てずに閉め、
自分を仕事モードに切り替えるべく、しばし寄りかかる。
目を瞑り、天を向き、深く呼吸を整える。
私のしたことはこれでよかったのだろうかと
反復するが、何も降りては来ない。
私の理性がゆっくりと戻ってくる。
先送りできる難問に対しては、とりあえず保留。
他にもせねばならないことがある。
とりあえずは、午後から夕刻不在にしてしまったことで
机の上にドカンとたまっているだろう、書類閲覧だ。
「よしっ、冴子、ご出勤よ!」
小さな声で自分を奮い立たせる。
それを引き受けるかのように、声が響く。
「謝謝、冴子姐姐」(サンキュ、冴子ねーさん)
少し離れたところで、壁に寄りかかるリョウが居た。
きっと、ずっと、ドアの外で、私たちを感じていた。
黙ってファインダーを覗く、あの静けさと共に。
卑怯者は、土壇場のラストシーンで感情を揺さぶる。
あんたが、私の過去とリンクする仲間だなんて
ほんと、いやんなっちゃうわ。でも、これからは・・・。
「・・・ばぁーか、あんたのためじゃないわよ、
あーちゃんのためよ・・・。
夕食作ってあるから食べること。
寂しがらせないようにしなさいよ、男親でもね!」
黙って床を見つめ、私の声を体中に染み渡らせているリョウ。
「それから、カメラ持って、彼女とお出かけすること!わかった?」
答えなんて要らない。
全部を見抜く、あの眼差しと、
にっこりと引き受けたような顔で微笑んだ、リョウの顔を見たから。
そして、私は、白色とネオンの光が満ちる
喧騒の新宿の街中へ、勇ましく闊歩を踏み出した。
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060831
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