河原の石をとり集めて
これにて回向の塔をつむ
一つつんでは父のため
二つつんでは母のため
三つつんでは国のため
兄弟わが身と回向して
昼はひとりで遊べども
日も入りあいその頃に
地獄の鬼があらわれてつみたる塔をおしくずす
北の地は賽の河原に最も近い。
そこに住まう女性たちは彼岸から会えぬ人を誘う力を持つという。
残された人々の希望を、言葉と変えて耳に届ける。
恨み言は聞かれることが無く、
伝言は受容され、後悔は許される。
慟哭する私の背を香螢ちゃんが優しく叩く。
”おーどーまーぼんぎりぼんからしゃぁ きゃぁおらんど・・・”
彼女が絶対に知らないであろう、子守唄がかすかに聞こえる。
誰?
私は、今、誰に抱きしめられているの?
自分が抱いている幸せな願望を現実にしたい、自分の甘えが怖い。
だから、怖くて顔を上げることが出来ない。
二度と会えぬ人の、ほんとうの気持ちを言葉で感じること。
生きている者の内心が、普通に接していても分からぬように
絶対に叶わぬことだとわかっていてもなお、
聞こえてくる音楽と声音、優しい響きは、
香螢ちゃんではない誰かの気配を確実に私に伝えてくる。
”冴子さん、みんなが私を忘れていくんじゃないかと不安なのよね”
”冴子さん、ありがとう だいじょうぶだから”
”冴子さん、香螢は私の娘なの。どうかこの子をよろしくね”
”冴子さん、アニキが身寄りの無い私を慈しんでくれたように
この子にも、どうか、笑顔を取り戻させてやってほしいの
リョウと一緒に生きる幸せを、掴み取る手伝いをしてほしいの”
こうであって欲しいと思う言葉が、
ゆっくりと心地よく耳に流れてくる。
槇村の密かな悩み、苦しみでもあった、
血縁の無さを彼女が既に知り、受け入れていたということを含め
私の戸惑いの源に埋まる黒い種を、一粒ずつ、取り除く暖かい言葉。
コントロールできない私の感情が切実に欲する、幻。
ぬくもりと肌の匂い、
息遣いや相手の鼓動を体中で感じながら、
こうやって強く暖かく抱きしめられたのは、
槇村が私の傍から消えてから、これが初めて・・・。
気力はなくなり、体力も尽き果て、
私はそのまま、闇に意識を手放した。