albums(15/21)
・・・「窮鼠猫を噛む」だったかしら・・・
いいえ、この気持ちは
「ミイラ取りがミイラになる」だわ。
悪意は必ず自分に翻る。
香螢ちゃんを試そうとする気持ちを自覚してしまったことで
余計に自分が言い知れぬ気持ちで満たされる。
歯を食いしばる。
情けないところなど、絶対に見せたくは無い。
特に今後、様々な場面で教える立場になるであろう、
この子の前では。
リョウが撮った写真たちが
アルバムの中に展開されていると分かってから、
香螢ちゃんは一言も口を聞かず、ただ黙って彼の目線をなぞっている。
リョウが私たちの生活の中に関わり出してからの写真は
そのまま私の記憶とも重なるものが多い。
私の重い沈黙の理由を
香螢ちゃんは恐らく本能で感じ取っている。
死者を見送る、聖者の行進が耳の遠くで跳ねている。
地獄に向かってマーチングを始めるには、
私はこの世に、まだ未練が多すぎる。
彼岸と現実の間に立ちすくんで、
失われた者の記憶を辿るみちゆきが
残された者にとってどれほどに苦しいかを、
奪った人間は初めて目の当たりにして、意識しているのだろう。
私の姿を覚えておきなさい。
言葉ひとつ出せなくなった、私の内面を感じなさい。
私が身体で伝える全ての所作が
あなたをこれから強くもし、苦しめもする。
のろのろと、香螢ちゃんは黙って3冊目を開く。
まだ表紙の角がへたれても居ない、新しいアルバム。
一枚目を見た瞬間
喉の奥に飲み込もうとした呼気が
自分の耳元で、嗚咽となって吐き出されてしまった音を聞いた。
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