albums (13/21)
一度にたくさんのものを硬直して見れば、疲れるだろう。
肩を落とし気味に、香螢ちゃんはぱたりと表紙を閉じる。
「・・・そういえば、サエコ、これを撮ったのは誰だ?」
「秀幸さん。香さんのお兄さんよ」
「まだ、会ったことが無い」
「ずいぶん前に秀幸さんも亡くなっているの。
香さんが19歳か20歳の頃だから、もう、10年近くなるのね」
「シャッターを切った人間も、撮られた人間も
もう、ここには、居ないのか・・・」
「ええ」
数字を口に出してしまうと、
改めてその年月の長さに驚いてしまう。
何かを感じているのであろう、
無言のまま、重ねられたアルバムにまた彼女は手を伸ばす。
それでも、見ようという思いはあるのね。
彼女の覚悟は、私の本音も飲み込めるのかしら・・・?
1回り以上も違う娘に抱いた私の幼稚さをも苦く噛み潰し
これを招いた私の責任として、最後まで付き合うことにする。
2冊目は、彼女の小学校高学年から、中学時代で満ちていた。
はじめのページから中ごろまでは
槇村の文字と注釈が見られるが、中学校の入学式からは
香さん自身の短いコメントが付けられている。
槇村が作ったアルバムの様式を、そのまま使って。
友人と肩を組み、口をあけて晴れやかに笑う顔。
文化祭の準備だろうか、梱包材や文具、絵の具などが転がっている。
_アニキに帰りが遅いって怒られた!
クラスメイトの男の子にクリーンヒットが決まった瞬間。
誰が撮ったのかしら、とても鮮やか。
周りの女の子の笑う顔、
男の子たちが呆気にとられている顔まで良くわかる。
_天誅!
少しずつ、女性として豊かに実りを遂げている
香さんの学生時代は、私にしても新鮮で、
香螢ちゃんと並んで首を突っ込むようにして眺めてしまう。
身体を乗り出して写真に見入る彼女は可愛らしい。
自分とほぼ同年齢だったころの香さんは、
とても近しく感じるのだろう。
どうしても聞いてみたい、という満面の好奇心で私に言う。
「学校って、楽しいのか?」
「なぜ皆、同じ服装をしている?
私が支給された軍服は女性もズボンだったが
なぜ香マーマや周りの娘はスカートなんだ?」
「私も、学校へ、通えるのか?」
残念ながらそれは無理かもしれない、と事実だけを述べる。
眼差しを一瞬伏せた後、振り切るような顔で
彼女はまたページをめくる。
職安通り沿いにある看護学校へ入学した時から、
写真は激減している。
香さんが進路を決め、まっすぐ向かいだしたころから
槇村も次第に外傷が増えてきていたのを思い出した。
香螢ちゃんがじっと見ていたのは、
戴帽式の写真。
ナースキャップを厳かに受けるきりりとした横顔。
キャンドルを持ち、同期生と並んだ記念の一枚。
そして、鼻の頭に手をやり、気恥ずかしそうに並んでいる槇村と、
彼の肩に手を置く笑顔のドク(あら・・・今も変わらないわね)、
満面の微笑みでうつる、ナース姿の香さんの写真があった。
「これが、秀幸伯父(bo-fu)…やっと、会えた、ね…」
ちらりと香螢ちゃんの顔を見る。
何故だか、先ほどまでの印象とは少し違う、
どこか懐かしい、喋り方の抑揚、目頭に光るもの。
「この写真、撮ったのが、サエコか…?」
そう問われて、この時期から
リョウが二人の傍らに舞い込んできたのだとわかった。
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