albums (12/21)


・・・そう、無理に言葉を重ねることなど無い。
ただ目前にあるものを見せるだけでいいのよ。


ずっと蓋を閉めて、見ないようにしてきた黒い感情。


誰かのためを思うからこそ、
出せなかった何かの代わりに
大事に隠してきた
私自身の闇の本音の一部が、
ふつふつと加熱してくるのを感じる。



”説明”など要らない。



賢い子なら、ひとつひとつの写真に溢れる何か、
得られなかった”もの”を感じ取ることでしょう。



苦しさに、のた打ち回りなさい。
孤独を再確認しなさい。



今こうやって、少女と向き合っている間も
私の選んだ職業は、緊張と同様の匂いを常に保っている。
弛緩や怠惰が即、誰かの喪失に繋がってしまう。
私が判断を止めている事案で、
誰かが命を落としているかもしれない。


大きな歯車の一つだと自覚していてもなお
社会に対する正義感という感情が原動力になる私とて、
結果として無力さに情けなくなるときがある。


香螢ちゃん、あなたが生きてきた世界は
感情も排除された、苛酷なものだったとは思う。


けれど、だからといって
私たちが生きる世界がそれと比べて劣るものではない。


不条理も、ままならぬことも、たくさんある。
香さんはそれでも、私たちの前では笑っていたのよ。
涙も流していたはず
憂い顔もしていたのだろうけれど、きっとそれは隠していたはず。
少女の頃から、ずっと。




残酷な相違を見つめなさい。
埋められることがけして出来ない、
あなたと香さんの、今まで歩んできた道のりの相違を。




男たちはあなたを受け入れて
あなたが生きる日常に早々にシフトし始めている。


香さんの記憶を身体に宿し、言葉を開陳し、
香さんを巡って緻密に張り巡らされていた絆の結び目として
あなたがそれに割り込むことに慣れてきている。


殺し続けてきた者が、
周りを慰撫する支えとしての力を持った人間に
すぐにすり替われるはずが無い。


私が香さんに感じていた拠所の重さを改めて感じるからこそ
あなたにその代わりが出来るとは思えない。
笑い方ひとつ、「学ばねば」「思い出さねば」できぬほど
心を凍らせてしまったあなたには。



男たちは目をつぶる
大事なものを心に沈めることで
表面上は一応整理がついたものとして扱う。



あなたには絶対に入り込めない絆の成り立ちを
疎外感とともに自覚するがいい。
私が大事に紡いでいた絆の中に、
あなたが強引に入り込むことを、
まだ私の心は迷ったままで居る。


男たちと違って、
あなたの傍に居る、唯一の女性の私が
あなたに伝えることは
決して優しいものだけではない。

迷いの心が、
あなたに現実を見せてしまっている。
希望の芽吹きを、ヒールの尖った踵で踏み潰している。


それを、あなたはどう受け入れるの?


あなたは、「ひと」になったあと、女性になれるの?
香さんが持っていた、女性らしさの側面まで
今のあなたに、理解ができるの?






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