車を運転中の撩が急にアタシの右手首を掴んだ。



ビックリして撩の方へ顔を向けると、撩は相変わらず前を向いたまま。
でもちょっとだけ、顔がニヤケてる。


なぜ突然手を掴まれたのか、アタシには理由もきっかけもわからなくて、
撩の顔をみたままぽかーんとしていると撩がクスリと笑った。
いつものようにからかわれているのだ、と少しムッとして、
撩から手を離そうと腕を振ってみた。

しかし、撩の左手にしっかりと掴まれていて外れない。

ムキになってブンブンとちょっと強めに腕を振ると撩がケタケタと声を上げて笑い出した。
アタシの反応は撩のイタズラ心を満足させたようだ。


「何よ、何がおかしいのよ。」


自分の様子が撩を笑わせていることはわかっていたけど、
いきなり、予告なしに手を掴まれて嫌ではないけどビックリしたんだから、
少しだけ抗議の意味を込めて強い調子で言ってみた。


すると撩は笑いながらチラリとこちらを見てからアタシの手をシフトレバーの上へ乗せた。


そしてアタシの手が乗ったレバーを左手で握った。


「こうした方が、なんか良くねぇ?」


そう言って親指でアタシの手の甲を何度か撫でると
もう一度、こちらを見て柔らかく笑った。


シフトチェンジのたびにアタシの手とシフトレバーを握る撩の大きな手に
“きゅぅ”っと力がこもる。
その強弱に同調するようにアタシは自分の胸のあたりも
締め付けられているような、そんな甘い感覚を覚えた。


「……片手運転、危ないわよ…」


なんだか照れくさくて、憎まれ口を叩いてしまった。
撩は前を見たまま、今度はククッと小さく笑い、はいはい、と言った。



その日以来、シフトレバーと撩の手の間がアタシの右手の指定席になった。





『シフト』2005.11.25








◇◇アトガキ◇◇
手フェチなもので(笑)。


♪:Driving All Night(DOUBLE)